日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0103
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世界遺産を通じてジオパークの未来を考える
*鈴木 晃志郎
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抄録

1.ジオパークの背景と沿革
環境保全に対する発の国際的な取り組みとなったストックホルム会議(1972年)で世界遺産条約が採択されてちょうど20年後の1992年、地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)では、国家のみならず自治体やNPOなどが有限な環境資源の適切な利用・管理施策の意志決定に参画することを謳った「陸上資源の計画及び管理への統合的アプローチ」を含む行動計画『アジェンダ21』が提唱された。ジオパークの直接の源流を辿ると、この行動計画に基づき、1997 年にユネスコで提唱されたジオパーク・プログラムと、1998年に確立した国際ジオパーク・ネットワークまで遡ることができる。“地質分野の世界遺産”としてのジオパークが注目されるようになったのは、2001 年にユネスコ執行委員会が各国のジオパーク推進活動の援助の方針を決め、2004 年に世界ジオパーク委員会(GGN)が設立されてからのことである。
欧州ではいち早く、これを受ける形で2000 年に「欧州ジオパーク・ネットワーク」が誕生した。2004 年、世界ジオパーク委員会が設立され、同年6月に中国の北京で第一回世界地質公園大會が開催されて、保全・教育・ジオツーリズムを柱とするジオパークの運営ガイドラインが示されると、日本でもジオパークの推進活動が本格化した。リーダーシップを担ったのは、日本地質学会やGUPI (NPO 法人地質情報整備・活用機構)、産業技術総合研究所などである。また2008 年からは、世界遺産登録におけるイコモスやIUCN の国内委員会と同様の役割を担う機関として日本ジオパーク委員会 (JGN)が発足し、GGN への加盟申請候補の推薦や、日本ジオパークの認定等を行う制度が整いつつある。

2.ジオパークの特色
ジオパークは「地質学的のみならず考古学的、生態学的または文化的価値観において、1つまたは複数の科学的重要性を有する場所包含する範域」と定義され、(1)「アグリツーリズムやジオツーリズムなどのように、持続的な社会経済的発展を促すようデザインされた運営計画」、(2)「地質遺産を涵養、保全するための方法と、地理科学の諸領域あるいはより広範な環境問題について教えるための手段」が提供され、(3)「地球資源保全とその持続的発展戦略との融合において最良の運営状況を示している、公共団体、地域コミュニティ、私的利益者間の協働作業による共同提案を有する」ことの3つを要件とする。(UNESCO Geopark Programme 2008)。人類にとっての「顕著な普遍的価値」の有無を10項目の評価基準で選定する世界遺産とは異なり、ジオパークは遺産の適正利用に重点をおく。これは、ジオパークの概念形成に際し中心的な役割を果たしたドイツで、ゲオトープやジオツーリズム、地質多様性などの先行概念やパイロット・プロジェクトが多数存在していたことと関わりがある (Frey et al. 2006)。

3.世界遺産を通じてジオパークを考える
世界遺産条約では、加盟国に対して自国の文化遺産・自然遺産を保護するための措置を講ずるように義務づけてはいるものの、各批准国の国家主権を優先するため強制力はない(高樋, 2003)。あくまで評価は登録時点の価値であり、登録の結果生じる観光客増加のインパクトや、地域住民の生活権の攪乱に対する配慮や対応がなされるわけではない。また認定はあくまで登録時点のもので、状況によっては削除されうる。
適正利用を前提とするジオパークの場合、登録後の維持管理方針には一層の具体性が求められる。登録後の開発や観光客の過度な流入、資源収奪や地域住民との軋轢などの不幸な結果を招く懼れに充分配慮した適正利用の指針を打ち出すことに、我々はいっそう重きを置く必要がある。
ジオパークの信頼性を保ち、高めていくのは、ひとつひとつの国や地域であり、世界遺産登録をめざす各国の専門家、そして地域住民たちなのだ。それぞれの人々が対話と連携を重ね、きめ細やかな合意形成をはかることが求められる。そのための工夫やノウハウを、今のうちから蓄積する努力をしておくべきだろう。

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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