日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0107
会議情報

ドイツ自然公園における観光とその新しい展開
*フンク カロリン
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.ドイツにおける観光行動の傾向
 ドイツにおける近年の観光行動の傾向を見ると、ルーラル地域に影響を及ぼす傾向がいくつか上げられる。1つは外国旅行が増加しているなかで、国内地域や故郷が再認識される傾向である。人間と自然の相互作用により作り出された文化景観、ワイン生産のように景観に強く刻印し、地域文化を作り出す特別な農産地域は特に人気が高い。第2の傾向は野外レクリエーションやスポーツの人気である。ハイキングは中高齢者が赤い靴下と革の半ズボンでグループを組んで山歩きをするイメージから、収入が高い都市住民層が健康維持のために最新のスポーツウェアーを身につけて楽しむ活動に変った。ハイキングに次いで、自転車に乗る人が年々増加している。3つめの傾向は自然志向である。「自然を体験したい」という旅行動機を上げる割合が年々増加してきた。その結果、観光地のイメージ作成やマーケティング戦略ではさらに自然環境が重要な要因になった。そこで地域文化への関心、野外レクリエーション、自然志向という3つの傾向に答える空間として自然公園が注目される。

2.自然公園と観光
 ドイツでは、広域自然保護地域として人間にあまり影響されていない自然と生態系を保護することを目的とする国立公園(Nationalpark) と、人間と自然の相互関係を調整し、文化景観の保護体制である生物圏保存地域(Biosphärenreservat)と自然公園(Naturpark)という、3種類の指定がある。現在(2010年)101か所の自然公園は景観保護地区や自然保護地区を多く含み、景観がレクリエーション利用に適している地域を総合的に保護し、発展させることを目的とする。自然公園は1950年代から指定が始まっているが、規制がほとんど指定地域内の既存の景観保護地区や自然保護地区に限られるため、保護よりもレクリエーション機能が重視されてきた。

3.黒い森南部自然公園
 黒い森地域はドイツの中間山脈で最も高く、1493mの最高峰Feldbergを中心に、針葉樹からなる森に覆われている。鉄道の早い開発は産業の繁栄に貢献し、温泉や空気の治療効果が高い山間地域へ観光者を運び、19世紀から観光地域としての発展をもたらした。現在は伝統的な産業構造をもとに発展した機械産業、化学、ハイテク産業の他に農業や林業、または観光が経済の柱となっているが、近年の農業構造の変容により伝統的文化景観の維持が難しくなってきた。黒い森全体では年間600万人の観光者が1890万泊(2007年)過ごしているが、観光者の滞在期間が短縮し、冬の観光が気候変動に伴う雪の不安定により、保養地が健康保険を利用した保養滞在の減少により伸び悩んでいる。このような問題を解決し、地域全体の発展を検討する機関として自治体103ヶ所、面積370.000haからなる黒い森南部自然公園が1999年に設立され、文化景観と伝統的産業を活かした観光の発展に取り組んでいる。

4.ウーセドム島自然公園
 ウーセドム島はドイツとポーランドに跨るバルト海の島であり、42キロに及ぶ砂浜海岸を中心に19世紀からベルリン市市民のリゾート地として観光が発達した。海岸沿いに並ぶ保養地の陸側に海岸線の変化から生まれた湿地や池、湖が点在している。ドイツ側の地区は統一後に宿泊施設の開発が進み、観光者が急増したが、一方、1999年に自然公園に指定され、海岸線の保護も強化された。ビーチと夏に依存していた観光は高級ホテルを利用した健康観光と、自転車でのスポーツ観光に多様化しているが、国内観光者への依存、シーズン中の混雑など、直面する問題も多い。
本発表では両公園における観光の発展と直面する課題を比較し、自然観光資源や文化景観の保護と観光のための活用について検討する。

著者関連情報
© 2010 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top