日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1101
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大学地理教育における標準カリキュラムと学士力
現状とあるべき姿
*岡本 耕平海津 正倫小田 宏信高橋 眞一戸所 隆山下 博樹
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抄録

1. シンポジウムの目的
 今日、地域再生、環境共生、地域情報発信などを主導的に担う人材の育成がますます重要になっており、大学地理教育が果たしうる役割は大きい。しかし、日本の大学地理教育は、1大学当たりの地理学担当教員の数が少ないことや、標準的なカリキュラム・教科書の整備が不十分であるなどの問題を抱えている。本シンポジウムは、大学地理教育の現状を検討し、今後の日本の大学地理教育のあるべき姿とそれへの道筋を見出すことをめざす。
  なお、本シンポジウムは、日本地理学会と日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会合同地理教育分科会の共同で開催する。

2. 背景
 2008年12月に公表された中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」では、大学卒業までに身につけるべき能力として、「学士力」という考え方が打ち出された。これは、大学は、学士学位授与の方針を具体化・明確化し、かつ社会に公開することによって、大学卒業者の能力を社会に対して保証すべきだという提言である。
 学士力には、論理的思考、コミュニケーション能力、倫理観など、分野横断的に共通した学修目標とともに、専門分野別の到達目標がある。後者をどう構築するかについては、文部科学省から日本学術会議へ審議が依頼され、「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を中心に検討がなされている(『学術の動向』2010年6号の特集記事参照)。
 検討に当たって参考にされたのは、イギリスの「高等教育質保証機構」(The Quality Assurance Agency for Higher Education: QAA)の 「分野別参照基準」(Subject Benchmark Statement)である。2010年現在、地理学を含む57の分野の参照基準が公表されている。地理学の場合は、2000年に約20名の地理学者の協力で初版が策定され、2007年に改訂版が出されている(http://www.qaa.ac.uk/ academicinfrastructure/benchmark/statements/geography.pdf)
 本シンポジウムでは、日本の大学地理教育のおかれた状況にそくして、地理学学修者の質を保証する参照基準と、その具体的な実践例としてのカリキュラムについて考える。
   ここで注意しなければならないのは、本シンポジウムは、標準的なカリキュラムについて議論するが、それは何か特定のカリキュラムの構築をめざしてなされるのではない。日本学術会議が、QAAに倣って「参照基準」という言葉を使っているのも、個々の教育プログラムや学位の授与に対して根本的な定義を与える規制的なものをつくるのではなく、各大学やコースの取り組みの自主性と多様性を尊重したうえで、学士学位の質を保証するために参照されるべき基準の策定をめざすためである。本シンポジウムで「標準的カリキュラム」という語は、そうした基準に則ったカリキュラムという意味で用いている。

  3. シンポジウムの構成と検討課題
 シンポジウムでは、多様な大学地理教育の現場(地理専門教育、教職教育、地域政策系教育×国立・私立)での実践例について、次の方々にご報告いただき、総合討論で議論する。

友澤和夫(広島大学)「広島大学文学部の地理教育」
高橋春成(奈良大学)「奈良大学文学部の地理教育」
長谷川均(国士舘大学)「国士舘大学文学部の地理教育」
石丸哲史(福岡教育大学)「福岡教育大学の地理教育」
富樫幸一(岐阜大学)「岐阜大学地域科学部の地理教育」
高橋重雄(青山学院大学)「青山学院大学経済学部の地理教育」
コメント: 志村喬(上越教育大学)

 総合討論での検討課題としては、次のような事項が考えられる。
・そもそも学生にとって、地理学の学修がどのような意義を持つのか。
・地理学のように、複合領域的な学問において、地理学として最低限の共通な参照基準は何か。
・学生が大学を卒業して就く様々な職業と、地理学の提供する質保証がどのように関わるのか。
・現在、地理学の授業は、教養課程、教職課程、地理学の専門課程、経済学や地域政策などの地理学以外の専門課程に置かれている。それぞれの課程において、どのような質の保証がなされるべきか。
 

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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