日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1410
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ハーバード大学地理解析センターにおける歴史GISプロジェクト
*塚本 章宏
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抄録
I はじめに
 近年,多くの分野でGIS利用が進んできている。そのなかのひとつに歴史分野が挙げられる。GISを歴史空間で運用する研究分野は歴史GIS(以下,HGIS)と呼ばれ,特に2000年頃から,多くの成果が蓄積されてきている。海外の歴史GISプロジェクトでは,インターネットを通じて,歴史的な統計データやデジタル化された地図を閲覧・入手することが可能となっているものが多い。こうしたと歴史分野でのGIS利用において,先進的な取り組みを進めている米国ハーバード大学地理解析センター(以下,CGA)が主導したHGISプロジェクトについて紹介したい。また,ハーバード大学における,GIS利用の中心的な役割を果たしているCGAの設備・研究プロジェクトなどについても触れ,日本におけるHGISプロジェクトの方向性について,考えてみたい。
II 歴史GISとハーバード大学地理解析センター
 HGISプロジェクトの特徴のひとつとして,GISの位置情報を基盤に据えたデータ設計の概念によって,膨大な歴史資料の効率的な検索と情報の公開を実現していることが挙げられる。海外におけるHGISプロジェクトで特に有名なもののひとつとして,ハーバード大学の主導による”China Historical GIS”(以下,CHGIS)がある。このプロジェクトでは,インターネットを通じて,中国の歴史的な地図・資料などを閲覧することや,GISデータをダウンロードすることができる。一方で,GISのデータセットとして,ある程度の完成度を有するCHGISのデータは,教育素材として学部・大学院の授業でも使われている。他にもCGAでは,歴史分野に関わるプロジェクトとして,"Africa Map"や"Digital Atlas of Roman and Medieval Civilization"も推進している。これら2つのプロジェクトは,CHGISのようにGISデータのダウンロードはできないものの,インターネット上で当該地域の歴史地図や地名を検索・表示することが可能なシステムを構築しており,いわばインターネット上の地誌のようなものである。
III ハーバード大学地理解析センターの概要
 HGISのプロジェクトを日本において進めていくためのひとつの指針を模索するために,様々なGISプロジェクトを管理・運営するCGAの概要を以下にまとめる。
1) 設立:CGAが設立されたのは,2006年5月である。設立の理念は,GISが多くの学問分野にとって有用な技術であることが認識され始めたことを背景に,これまで個別の研究科・学部で利用されてきたGISのサービスを,ひとつの拠点に統合することがなされたのである。
2) 設備:拠点はCambridgeキャンパスにあり,専任・客員研究員の個別・共用の部屋や,30台を超える共用のコンピュータを有するラボもある。また,Longwoodキャンパスにもヘルプデスクとワークショップルームがある。
3) スタッフ:専任7名,客員研究員10名(2010年7月)。
4) コンサルティング:学生・研究員・研究スタッフに対して,ソフトウェア・アプリケーションの使い方,地図化や空間分析などの研究サポートのみに止まらず,研究助成金申請や研究プロジェクトの構想段階から相談を受け付けている。
5) 教育・普及:学部・大学院でのGISの授業に加え,授業を履修していない学生を対象とした無料のトレーニングコースや、年2回の院生・ポスドク研究員を対象とした2週間の集中プログラムもある。そして,毎年春には,CGA主催によるカンファレンスが開催され,特定のテーマのもとに,多くのゲストスピーカーが招かれる。
6) プロジェクト:2006年から,CGAが関わったプロジェクトは,前述のプロジェクトも含めて60以上になる。
IV まとめと展望
 ハーバード大学は,GIS技術の拠点を形成することで,GISに精通した人員を常時配置して,教育・研究・共同利用の受付窓口をひとつに集約した。これによりGISスペシャリストと歴史研究者との共同を進めやすい環境が整備された。その結果として,GISとは縁が薄かった歴史分野においても,HGISのプロジェクトとして一定の成果を残すことができたと考えられる。今後,こうした共同研究を進めるための基盤・環境整備が日本のHGISの発展にとって,重要な要素になるのではないだろうか。
付記
 本報告は,日本学術振興会研究者海外派遣基金「優秀若手研究者海外派遣事業(特別研究員)」における成果の一部である。
参考資料
1) Guan, W. and Bol, PK. 2009. Harvard Revisited: Geography's Return as GIS. The Geography Teacher. 6(2): 14-18.
2) Center for Geographic Analysis at Harvard University.
http://gis.harvard.edu/icb/icb.do(最終閲覧日:2010年7月11日)
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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