日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1605
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韓国における生物多様性国家戦略と生物多様性教育
*金 ひょんじん
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抄録

1.韓国の生物多様性国家戦略
 2002年に開催された生物多様性条約の第6回締約国会議(COP6)において、「締約国は2010年までに、地球、地域、国レベルで、貧困緩和と地球上すべての生物の便益のために、生物多様性の現在の損失速度を顕著に減少させる」という戦略目標(2010年目標)が採択された。この2010年目標に従って韓国では、2009年6月29日に「国家生物多様性戦略及び移行計画」が決定され、_丸生物多様性保全、生物多様性の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生じる利益の公平な配分を3大目標とした。その具体化のために、以下の5つの推進戦略を設けた(「国家生物多様性戦略及び移行計画(案)」(2009.6))。

1)生物多様性の效果的保全
-生物種保護地域拡大及び絶滅危機種復元;湿地保護地域を 2008年の12ヶ所から2011年までに22ヶ所に拡大、ラムサール湿地登録を 2008年の11ヶ所から2011年までに16ヶ所に拡大。
-多様な遺伝子材料の確保及び情報ネットワークの構築
2)生物多様性の脅威要因に対する效果的対応
-気候変化による生態系変化研究・評価
-生態系を撹乱する外来種の管理
-遺伝子組み換え生物体(LMO)の安全管理
3)生物資源の持続可能な利用
-生物多様性増進のための支援対策
-生態保護と地域経済に寄与する生態観光の活性化
4)生物種遺伝資源の利用権限の確保
-遺伝資源利用に対する国際規範の事前準備
-国外搬出承認対象の生物種拡大
5)生物多様性のための国際協力及び広報
-生物多様性関連国際条約との協力
-生物多様性の広報強化:2013年までに生物多様性教育・広報のためのインフラ構築、地域別研究及び教育・広報拠点の確保、2012年までに中高校生2,500人を生物資源保全広報リーダーとして育成。

 以上のような韓国の生物多様性国家戦略では、生物多様性教育の強化にも取組んでいる。次に韓国における生物多様性教育について考察する。

2.韓国の生物多様性教育
 2010 年は、生物多様性の果たす極めて重要な役割についての理解を深めるために国連が定めた「国際生物多様性年」である。全ての締約国は国家的な委員会を設置し、国際生物多様性年の式典を挙行することが奨励されている。韓国においては、2010年3月31日に国内委員会が設置され、生物多様性への社会の認識を高める事業を行っている。
 韓国における「国際生物多様性年」の記念事業においては、以下4つの学校教育における生物多様性に関する教育が推進されている。
1)生物多様性教育の資料発行:韓国ユネスコ委員会と韓国科学創意財団によって、理科(特に生物)で活用できるよう開発された生物多様性教材『美しい生命の網(小学校)』、『つばめについて行って見よう(中学校)』、『在来種の豆が消えている!(高校)』などの発行。
2)国際ワークショップの開催:芸術教育を通じて生物多様性の美的認識を促進するために、ユネスコ世界文化芸術教育大会期間中に「環境と芸術教育」(5.26)、アジア・太平洋の科学教員を対象とした「生物多様性と持続可能発展教育のための科学教育」(7.26-31)を開催。
3)教員研修:国立中央科学館主催の生物多様性指導者養成プログラム、森・生態自然探求解説士研修プログラムの実施。
4)その他、児童・生徒を対象とした生物多様性調査野外活動。

 以上のように、韓国における生物多様性教育は科学教育、特に生物教育を中心に行われているが、美術教育での取り組みも見られる。また、地理授業で活用できる教材、地理教員が参加できるプログラムもある。例えば、_丸1_での『つばめについて行って見よう(中学校)』では、地図を利用したつばめの移動経路などの内容が含まれていることを指摘できる。
 韓国の地理教育における生物多様性教育の取り組みは、まだそう多くない。その理由のひとつとして、社会科の一領域で地理教育を行っているため、教育内容における自然地理の軽視が挙げられる。本発表では、韓国における地理教育の内容とともに、生物多様性のための地理教育の課題について提案する。

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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