日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 205
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アニメキャラクターを活用した観光まちづくり
鳥取県を事例に
*和田 崇
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抄録

 日本の観光は近年,物見遊山,団体客,発地型,一過性,通過型などを特徴とする形態から,体験・交流,個人客・小グループ,着地型,持続性,滞在型などを特徴とする形態へと変化してきた。これらの新しい観光は,「見る」「食べる」といった従来からの目的に加え,「体験する」「学ぶ」「癒す」「追体験する」という目的も顕在化している。このうち,「追体験する」ことを主目的とする旅行形態として,小説や映画,テレビ番組,歌,漫画,アニメなど,メディアを介して記録・伝送・鑑賞される映像や画像,音楽,文章などのコンテンツに関わる場所を訪ねるコンテンツ・ツーリズムが盛んになりつつある。本発表では,コンテンツ・ツーリズムの一つとしてアニメキャラクターを活用した観光をとりあげ,鳥取県境港市と同北栄町を事例に,自治体や地元企業,市民・NPOなどの関係機関が観光地づくりにどのように関わっているかという点を中心に報告する。すなわち,2つの事例について,アニメキャラクターを活用した観光まちづくりの実態を報告するものである。  アニメキャラクターを活用した観光まちづくりは,コンテンツの種類および地域との関わりという2つの視点から,いくつかのパターンに分類できる。コンテンツの種類からみると,アニメは商業系アニメ,芸術系アニメ,自生系アニメの3つに分類できる。また,地域との関わりからみると,題材型,ゆかり型,機会型の3つに分類できる。  鳥取県境港市は,漫画家・水木しげる氏が育った地であることに着目して,水木氏の代表作品である「ゲゲゲの鬼太郎」を活用した観光まちづくりを推進している。1992年から商店街(水木しげるロード)に「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪などのブロンズ像を設置したほか,鬼太郎列車の運行(1993年~),水木しげる記念館の運営(2003年~),各種イベントの実施などにより,水木しげるロードへの入込客数は1994年の約28万人から2008年には約172万人へと大幅に増加した。取組みの中心的役割を果たしたのは,当初は境港市役所であった。その後,商店街にブロンズ像が設置され,集客効果が実感できるようになると,鬼太郎音頭保存会(1996年),水木しげるロード振興会(1998年)など市民活動団体が組織されたほか,境港市観光協会や境港商工会議所も妖怪そっくりコンテストや境港妖怪検定,妖怪川柳コンテストなどユニークなイベントを主催した。また,水木作品(漫画およびその原画)の著作権を保有する水木プロダクションが,水木氏ゆかりの境港市のまちづくりに協力的であったことも,市内の各主体による取組みを後押しした。例えば,水木プロダクションはブロンズ像や記念館展示物のキュレイションを担当したほか,市内事業者が関連グッズを開発する際の著作権使用料を減免するなどした。  鳥取県北栄町は,「名探偵コナン」の原作者・青山剛昌氏が同町出身であることに着目し,1999年から「名探偵コナンに会える町」づくりを推進している。具体的に,1999年にJR由良駅と国道9号を結ぶ県道を「コナン通り」と命名し,7体のブロンズ像を設置したほか,2007年に青山氏の作品や仕事ぶりなどを紹介する「青山剛昌ふるさと館」を整備した。同記念館の入館者数は年間約64,000人(2008年)である。北栄町の取組みは,旧大栄町商工会が提案した「コナンの里」構想をきっかけに,旧大栄町役場が地域振興券に名探偵コナンをデザインしたことに始まる。その後も旧大栄町(2005年から北栄町)が名探偵コナンを冠したイベントを開催したり,観光プロモーションを展開したりした。活動が進展するに従い,町民の活動に対する認知度と参加意欲が高まり,2000年にはコナングッズを販売する「コナン探偵社」が町民有志によって設立された。北栄町では,町役場が漫画の著作権者である小学館プロダクションとの交渉を担当している。小学館プロダクションは,作品のイメージ保持と適切な著作権管理の観点から,著作物使用協議を慎重に行うほか,ふるさと館での展示方法や接客方法について北栄町役場に対してきめ細かく指導している。しかし,こうした慎重な協議ときめ細かな指導は,北栄町にとって時間的・精神的な負担,迅速な観光プロモーションへの障害となっている面があることも否めない。

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