日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S1703
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琵琶湖湖岸の地形変遷から生態系保全を考える
*辰己 勝東 善広
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キーワード: 湖岸地形, 人工地形, GIS, 生態系
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抄録

 湖岸の地形は、湖岸の生態系に影響を与える重要な要因の一つである。琵琶湖では近年、干拓、埋め立て、湖岸堤の整備等によって地形そのものが大きく変化し、新たな地形環境が作られつつある。かつてヨシが繁茂し、クリークで湖辺の水田とつながっていた水郷の景色はごくわずかになった。それに代わって登場したのは、湖岸道路の前面に作られた石積みの湖岸などが目立っている。それらの実態を明らかにするため、2007年から湖岸全域の詳細な地形調査をおこなった。
 湖岸部の地形形態に関しては、1988・1989年の琵琶湖研究所のもとで行われた調査「湖岸における土地条件(滋賀県琵琶湖研究所編、1989、1990)」で、湖岸の類型化が行なわれ、琵琶湖全体の湖岸を13の類型に分けて、それぞれの特徴が記され、各地区での調査結果も明らかにされた。このときは、湖岸をいくつかのゾーンに分けて分類したものであり、自然的湖岸と人工による湖岸との大まかな区分は行った。2007年度の調査では、20年前に使った5000分の1の地図と、新たに同縮尺で作成された地図と、2003年に撮影された航空写真の判読と、現地での調査により、湖岸地形の変化の有無を調べた。
 現在の湖岸地形は自然湖岸と、人工湖岸に大きく分けられる。自然湖岸は砂・砂礫・岩石からなる湖岸と、ヨシ等の植物が繁る湖岸である。人工湖岸は石積みの湖岸、コンクリート湖岸となっている。
 それぞれの分布を見ると、砂浜が卓越するのは、東岸の野洲川、日野川、愛知川、姉川の河口t付近と西岸の安曇川デルタ、砂礫湖岸は犬上川河口、ヨシの多い湖岸は、湖北の姉川河口の北側に多い。
 人工の石積み湖岸は南湖東岸(志那町など)、コンクリート湖岸は大津市街地、 大津港などに多い。人工の埋立地は、大津市街地(1962~,92ha),木浜(1966,124ha)、矢橋帰帆島(1986、67ha)、玉野浦・萱野浦(1963、31ha)、烏丸半島など、2000年までに386haである.
 今回の調査では、地形、ヨシや樹木などの植生、人工的改変状況をもとに類型化した結果、湖岸の形態は44種類に区分できた。それによると、北湖と南湖では、南湖のほうがコンクリート、石積み等で護岸された人工的湖岸の占める割合が大きかった。南湖に注目すると、東岸と西岸では、人工湖岸化の状況に差がみられ、西岸より東岸で人工湖岸化がより顕著で、西岸には、砂地やヨシ帯などが比較的多く残っていることがわかった。人工的湖岸は、コンクリート護岸が最も多いが、石積み護岸も約30%を占め、石積みによる人工護岸化も多用されたことがわかる。また、西岸より東岸のほうで石積み護岸の人工的湖岸に占める割合がやや大きくなっていた。
 1940年代末の米軍航空写真からの抽水植物帯判読結果を見ると、かつては東岸において抽水植物の分布域が大きく位置していたことがわかる。つまり、南湖東岸は、歴史的にはヨシ帯が卓越していた地域であり、近自然工法による石積み護岸だったとしても、異なった構造の湖岸に変わったことに違いはなく、在来魚等の生息環境に大きな影響を与えた可能性がある。
 今後の琵琶湖湖岸の環境再生は、地形特性など、元来、その地域が有していた固有の湖岸環境についても考慮することが必要だと考えられる。 地形、ヨシや樹木などの植生、人工的改変状況をもとに類型化した結果、湖岸の形態は44種類に区分できた。それによると、北湖と南湖では、南湖のほうがコンクリート、石積み等で護岸された人工的湖岸の占める割合が大きかった。南湖に注目すると、東岸と西岸では、人工湖岸化の状況に差がみられ、図1に示すように、西岸より東岸で人工湖岸化がより顕著で、西岸には、砂地やヨシ帯などが比較的多く残っていることがわかった。人工的湖岸は、コンクリート護岸が最も多いが、石積み護岸も約30%を占め、石積みによる人工護岸化も多用されたことがわかる。また、西岸より東岸のほうで石積み護岸の人工的湖岸に占める割合がやや大きくなっていた。
 1940年代末の米軍航空写真からの抽水植物帯判読結果を重ねた図を見ると、かつては東岸において抽水植物の分布域が大きく位置していたことがわかる。つまり、南湖東岸は、歴史的にはヨシ帯が卓越していた地域であり、近自然工法による石積み護岸だったとしても、異なった構造の湖岸に変わったことに違いはなく、在来魚等の生息環境に大きな影響を与えた可能性がある。
 2007年からの琵琶湖湖岸全域にわたる土地条件調査結果は、GIS解析を行なっている。これにより人為的に改変された湖岸の地理的分布とヨシ帯分布の関係が明らかになり、今後の水辺環境修復に役立つことが判明した。
 今後の琵琶湖湖岸の生態系の保全は、地形特性など、元来、その地域が有していた固有の湖岸環境について考慮することが必要だと考えられる。

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