日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 404
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2008年8月5日に東京都区部で発生した短時間強雨について
(2) 冷気外出流と気温分布
*高橋 日出男大和 広明清水 昭吾大久保 さゆり高橋 一之鈴木 博人
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抄録

◆はじめに:2008年8月5日正午頃に東京都区部で発生した短時間強雨では,新宿区東端から千代田区北西端が強雨の中心となり,時間降水量100mm以上を記録した.その一方で,時間降水量30mm以上の領域は直径5-6km程度であった.発達した対流雲による強雨時には,地上付近において冷気外出流・ガストフロントや雨水による地表面の冷却などに伴う明瞭な気温変化が認められる.本研究では,東京都区部を中心とする多数観測点の10分値に基づき,本事例を都心域に発生した短時間・狭領域強雨の典型例として,強雨域の時間推移に伴う地上風系および気温分布の変化について解析する.
◆資料と解析:本解析では,120地点の降水量観測資料(2009年度春季715)とともに,地上風の観測値として気象庁アメダス,東京都環境局(大気汚染常時監視測定局),ライフビジネスウェザー(L-Robo)による59地点の資料を用いた.気温観測値は,上記観測点のほかに,広域METROS(首都圏高密度気温観測システム)の観測点および都市内緑地のクールアイランド強度を求めるための参照として独自に設置した市街地観測点の合計111地点における資料を用いた.広域METROSは小学校の百葉箱で,市街地観測点はアルミ製の放射避けシェルタを用いて小学校校庭内で観測(「おんどとり」もしくは同等データロガを使用)し,すべて気象庁検定済みの温度計に対して器差補正を行っている.大多数の観測点が周囲に緑地が少ない市街地的環境に置かれていることから,林地内や林地に隣接した観測点は解析に使用していない.
 風系と気温分布の解析にあたり,風の東西・南北成分は500m間隔,気温は250m間隔の格子点にKriging法を用いて内挿し,それぞれ1km間隔と500m間隔の格子点群が4組あるとして気温傾度や温度移流(風ベクトルを内挿した500m間隔の格子点を使用)などの計算を行った.
◆気温分布と地上風系:最初の降水は11:10頃に渋谷付近に現れ,11:30頃から降水量が増大した.その後新宿付近,次いで池袋付近に強雨域が発生し,いずれも停滞ないしゆっくりと東北東-北進した.12:00頃から新宿付近の強雨域は急速に発達し,新宿区東端-千代田区北西端に最大で29mm/10minの強雨をもたらした.図は11:50から12:20について,前10分値に対する気温変化量(等値線),1kmあたりの気温傾度(濃淡),および地上風ベクトルを示している.11:50では大きな気温傾度で囲まれた領域(低温域)は気温低下域とおおよそ一致し,その範囲はほぼ降水域に対応する(水平温度移流小).12:00にはこの低温域北側(池袋付近)に強雨域が現れ,そこの気温が低下するとともに南東ないし南西に向かう冷気外出流が出現する.この時,既存の低温域北側には大きな気温傾度が残存しており,相対的に高温な北風(冷気外出流)の一部を上昇させ,対流雲の発達に寄与したことが考えられる.12:10には上記の気温傾度は消失して低温域が北側へ拡大するとともに,新宿区東部の強雨域から南東方向と西方向への冷気外出流が顕著になる.この後,強雨域の東側-南側では,12:30にかけて気温低下域が不明瞭になりつつ東-南東方向へゆっくりと移動する.しかし,神田から霞が関付近を経て南西に延びる大きな気温傾度はほぼ同じ位置に1時間以上維持される.神田から霞が関付近には地上風(冷気外出流)の顕著な収束があることから,この付近を縁辺部として下層に冷気プールが形成され,東京湾からの南東風を持ち上げることにより対流雲の発達・維持に寄与した可能性が考えられる.また,強雨域の西側においても,12:00までに形成された気温傾度の大きい領域は,東風の冷気外出流が発生し,その西側で気温低下が生じた12:10以降も数十分間維持されている.
 本事例では気温変化に対する水平温度移流の寄与は全般に小さく,顕著な気温低下域は降水域にほぼ対応している.雨水による表面温度の低下や,安定層をなす冷気プールの挙動に対する都市キャノピー(建築物群)の影響などを考える必要があろう.

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