日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 406
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黄土高原の降水地域特性とその要因
*大和田 春樹
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キーワード: 黄土高原, 降水, 水蒸気輸送
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抄録
1.はじめに
 黄土高原(東経100~115度,北緯34~40度)は,乾燥地域と半乾燥地域の境界領域に位置し,降水量の大半は7~9月にもたらされる夏雨地域である。黄土高原は中国でも有数の小麦生産地域であるが,小麦は最高気温の出現する7月末に収穫され,作物の生育期にあたる3~6月の降雨量が少ないため,前年の夏(8~9月)に降った雨を土壌中に浸透・保持させて翌年の発芽・生育をはかっている(Ohmori et al.,1995)。したがって,黄土高原における夏季の降水は,農業的見地からも重要である。
 黄土高原の水蒸気収支は,7月にはタクラマカン砂漠に似ているが,流入・流出が共にタクラマカン砂漠よりも強く,且つ水蒸気の多くは南から流入して,収束が1年の中で最も大きくなる(Yatagai,2003)。黄土高原に水蒸気をもたらす気流系は,降雨季の前半と後半で大きく異なり,6・7月にはベンガル湾からの南西風の一部,8月には北太平洋高気圧の西縁部の南東風によって水蒸気がもたらされる(大和田ほか,2004)。また,黄土高原付近は5~9月を通じて傾圧帯に位置しているが,そこに供給される水蒸気量の増大によって,7月から8月を中心とする降雨季が現れる(大和田ほか,2004)。以上のことから,黄土高原における多雨時の要因も,インド洋や太平洋を含む広域的の気流系の変化に伴う黄土高原への水蒸気の流入の増減と関係することが示唆される。しかしながら,黄土高原の多雨時における降水の地域的特徴とそれをもたらす気流系との関係は,いまだ不明な点が多い。
 そこで,本研究は,黄土高原の降水地域特性とその要因を,水蒸気輸送,および気流系の考察から明らかにする。

2.調査および解析方法
 解析には,中国気象局による降水量観測地点180地点のうち黄土高原付近に属する22地点の1979-92年の7・8月における降水量の日別データとECMWFのERA40の日別再解析データを用いた。

3.結 果
 7・8月の黄土高原における降水の地域的特徴をクラスター分析によって客観的に分類した結果,黄土高原における多雨季の降水の特徴は7月と8月で異なっており,7月は黄土高原北西部で降水量が少なく南東部で多い傾向がみられたが,8月は東西で特徴に違いがみられ,西部では南側ほど,東部では東側ほど降水量が増加していた。
 また,降水時の大気下層の気流系は,平均偏差による解析を行った結果,黄土高原周辺域に出現する低気圧性の渦と朝鮮半島周辺域に形成される高気圧性の渦の位置が降水地域と関係していた。さらに,降雨時は,黄土高原の北側が平年と比較して高圧部となることにより,7月は黄土高原の東側を流れる南西風,8月は黄土高原に流れ込む東風が強化され,黄土高原付近に水蒸気が輸送されて収束域を形成することが明らかとなった。
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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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