日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 508
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2種類の降水イベントに基づいた斜面崩壊のリアルタイムモニタリングシステムの構築
*齋藤 仁中山 大地泉 岳樹松山 洋
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抄録

1 はじめに

我が国では降水に起因する斜面崩壊が毎年発生しており,斜面崩壊の発生と降水量の関係を解析する研究が多く行われてきた. Saito et al. (2010, SOLA: Scientific Online Letters on the Atmosphere) では,日本列島において斜面崩壊が発生した降水イベントの平均雨量強度,降水継続時間,土壌雨量指数(SWI,岡田ほか,2001,天気)を解析し,斜面崩壊を発生させた降水イベントが短時間強雨(SH)型と長時間少雨(LL)型に定量的に分類出来ることを示した. ここで,一雨に着目して降水イベントの特徴と斜面崩壊の発生との関係を知ることは,土砂災害対策に応用可能であると言える.
そこで本研究では,SH型とLL型の降水イベントの特徴に基づき,日本列島において斜面崩壊を発生させる降水イベントの,リアルタイムモニタリングシステム(プロトタイプ)の構築とその検証を目的とした.

2 システムの概要と特徴

本システムでは,(財)気象業務支援センターから解析 雨量とSWI を受信し,このデータをリアルタイムで処 理することで,現在の降水イベントをSH 型とLL 型に分 類する.対象とするのは,日本列島全域(5km メッシュ) である.具体的に,毎正時の解析雨量から降水継続時間 (h)を算出する.ここでは,24 h の無降水継続時間で区 切られる降水イベントを一連の降雨とした.また,毎正時 のSWI は,同一箇所における過去10 年のSWI の最大 値で基準化(NSWI)して用いる.
そして,新たな降水イベントに対して,ある時刻におけ る降水継続時間とNSWI との関係が,SH 型とLL 型の どちらに分類されるのかを判別分析により判定する.SH 型は短時間の強い雨によりNSWI が低い状態から急上 昇する特徴を持ち,LL 型は断続的な長時間の降水により NSWI が緩やかに上昇した状態でその後の強い雨により 斜面崩壊が発生しやすい状況となる特徴を持つ(図1).

3 システムの検証と結果

本システム運用中の2010 年7 月3 日に,鹿児島県霧島 市,宮城県都城市において斜面崩壊災害(国土交通省砂 防部,http://www.mlit.go.jp/river/sabo/,2010.07.19) が発生した.両市においては,2 日夜から3 日未明にかけ て梅雨前線による激しい雨があり,とくに午前5~6 時頃 に斜面崩壊やそれによる土砂災害が発生した. この2 件について,一連の降雨の開始から斜面崩壊の 発生までのNSWI の時系列変化を図1 に示す.図1 よ り,今回の降水イベントは,それぞれLL 型の特徴を持っ ている.本システムにおいても,当時正しく分類するこ とができていた.とくに午前5 時には,霧島市,都城市周 辺のメッシュでNSWI が1 を超えており,今回の一連 の降雨は過去10 年で最も斜面崩壊が発生しやすい状況で あった(図省略).より多くの事例で検証が必要ではある が,本研究の成果は土砂災害対策に貢献できると考える.

4 謝辞

本研究は,日本学術振興会特別研究員奨励費(No. 20- 6594),および(財)河川環境管理財団の河川整備基金助 成事業により実施した.

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© 2010 公益社団法人 日本地理学会
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