日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 516
会議情報

浜名湖西岸・湖西市新所地区の沖積低地における完新世中期以降の環境変遷
*佐藤 善輝石川 智塩見 良三GO Arum海津 正倫鹿島 薫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

I はじめに
 浜名湖は遠州灘沿岸に位置し,砂州・砂丘列によって遠州灘から隔てられている.浜名湖では湖底堆積物の解析から完新世に汽水~海水環境と淡水環境が繰り返されたことが明らかにされており,こうした環境変化は砂州が成長・決壊を繰り返したためと解釈されている(池谷ほか1990,森田ほか1998).浜名湖沿岸には様々な形やサイズの沖積低地が見られ,これらの沖積低地の環境変化は海面変動や砂州・砂丘列の地形変化,地殻変動などの影響を反映していると考えられる.これまでに浜名湖東岸では六間川低地の環境変遷が復原されているが(佐藤ほか2010),湖西岸の低地ではデータが得られていなかった.
II 対象地域
 本研究では,浜名湖西岸の湖西市新所地区に位置する沖積低地においてハンドコアラーを用いた掘削調査を行い,コア試料を採取した.低地は更新世段丘面を開析する谷に形成された谷底低地で,幅約150 m,奥行き約750 mである.低地の谷口部には幅約20~30 m程度の小規模な砂州が1列形成されている.砂州より内陸側には微地形が形成されていない.
III 堆積物の特徴
 掘削調査の結果,褐色の未分解植物片からなる泥炭層と灰~灰白色の泥層との互層が認められた.側方への連続性から,少なくとも3層の泥炭層(上位から順に,上位泥炭層・中位泥炭層・下位泥炭層と呼ぶ)が認められる.上位泥炭層は標高1~-0.5 m,下位泥炭層は標高-1~-2 m,中位泥炭層は標高-0.5~-1.5 mに分布する.上位泥炭層は1 m~1.5m程度の層厚を有し,層厚10~数10cm程度の中位および下位泥炭層よりも有意に厚い.中位泥炭層最上部の標高-1.2 mから採取された植物片(葉の一部)からは5000±35 yrBP(5900-5640 calBP,2σ)の14C年代測定値が得られた.標高-2 m以深では,泥層中の砂分の含有量が多くなり,貝化石を多く産出する.低地谷口部の標高0 m以深には,小礫混じりの中~粗砂からなる砂層が認められる.この砂層は少なくとも1m以上の層厚を有するが,下限は未確認である.
IV 珪藻分析および電気伝導度測定結果
 採取したコア試料について珪藻分析用スライドを作成し,1000倍の倍率で検鏡した.また,堆積物混濁水の泥層電気伝導度を測定した.その結果,泥層からは汽水~海水棲種のCyclotella hakansoniaeCocconeis scutellumが優占して産出し,200 mS/m以上の電気伝導度測定値が得られた.一方,泥炭層では上位~下位のいずれでもAulacoseira granulataGomphonema属,Eunotia属などの淡水棲珪藻が優占した.
V 考察
 泥層は細粒堆積物からなることや珪藻群集・電気伝導度測定値から,内湾で堆積した堆積物であると解釈される.泥炭層は珪藻群集から,淡水域の池沼や湿地において堆積したと解釈される.泥層と泥炭層の互層は汽水~海水環境と淡水環境とが繰り返したことを示唆する.中位泥炭層から得られた年代測定値から,5700 calBP頃に淡水環境から汽水~海水環境への変化が生じた.
 湖東岸では7000年前頃以降の砂州形成に伴い,湖水の塩分濃度が低下したことが認められている(佐藤ほか2010).下位および中位泥炭層は低地を塞ぐ砂州が5700 calBPよりも前に形成されていたことを示しており,湖東岸の事例と調和的な地形発達過程を示す.一方,5700 calB頃の海水環境の出現は今回初めて見出された.上位泥炭層の形成時期はまだ特定できていないが,湖東岸で報告されている3400 calBP頃の汽水~海水環境から淡水環境への変化に対比される可能性もある.この点については,さらに調査・分析を行って検討を加える必要がある.
参考文献
池谷仙之・和田秀樹・阿久津 浩・高橋 実1990.浜名湖の起源と地史的変遷. 地質学論集36: 129-150.
森田英之・鹿島 薫・高安克己1998.湖底堆積物中の珪藻遺骸群集から復元された浜名湖・宍道湖の過去10,000年間の古環境変遷. LAGUNA 5: 47-53.
佐藤善輝・藤原 治・小野映介・海津正倫2010.浜名湖南東岸の六間川低地における完新世後期の堆積環境変化,地球惑星科学連合2010年大会,HQR010-P25.

著者関連情報
© 2010 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top