日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 109
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三重県伊勢市をめぐる観光バスの動向
*林 泰正石田 雄大田中 博久山元 貴継
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抄録
調査の背景と目的
 今回対象とした伊勢市は、(伊勢)神宮で知られる.この(伊勢)神宮は、天照大神が祀られ、参拝客も訪れる門前町として発展してきた「おはらい町」も隣接している「内宮」と,豊受大神を祀った「外宮」とで構成されている.そして伝統的に、まず「外宮」を参拝し、次に「内宮」を参拝することが求められてきた.また伊勢市は,(伊勢)神宮のほか、多くの神社群、二見浦や朝熊ヶ岳、博物館・資料館なども整備され、一見すると観光資源に恵まれた都市であるように映る.しかし一方で、この伊勢市の東側には、鳥羽市や志摩市といった観光都市がある.しかも、これら鳥羽・伊勢市に向かう道路は限られており、ほとんどの車は、伊勢市を経由してこれらの都市に向かう形となる.  そこで本報告では、こうした歴史的経緯や複雑な位置関係の中で、伊勢市を訪れていると思われる観光バスが、実際にはどのように伊勢市内外をめぐっているのかを明らかにすることを目指した現地調査の結果を紹介していく.

調査および分析の方法
 調査は2009年6月28日の終日行った.そして、伊勢市の各地点において、それらの地点を通過したのべ555台の観光バスのナンバープレート情報や通過時間帯などを記録した.この記録を整理し、かつ相互参照することで、192台の観光バスの伊勢市内外での動きを分析することを目指した.
 例えば、「外宮」前道路上、「内宮」行き道路の両地点で同じナンバープレートの観光バスが記録されれば、その観光バスは「外宮」「内宮」両者を訪れたと考えられる.また例えば、「内宮」行き道路と、「伊勢志摩スカイライン」などと接続する浦田交差点東および二見浦東側の二見トンネル西といった鳥羽・志摩市方面に向かう代表的な道路上との両者で記録された観光バスは、(伊勢)神宮を訪れた後、鳥羽・志摩市方面に向かったと分析される.なお、観光バス乗務員を対象としたアンケート調査も、補足的に実施した.

観光バスツアーの動き
 具体的に動きを把握することができた192台の観光バスのうち、実に127台が「内宮」を訪れていた.しかし、この127台のうち「外宮」も訪れた観光バスは、わずか32台に過ぎなかった.また、「内宮」を訪れた観光バスのうち、54台もの観光バスが、調査時間内に「内宮」以外のどの地点でも記録されなかった.
また、調査結果をもとに、各地点間での観光バスの行き来と、その台数とをみると、伊勢市内外をめぐる観光バスは明らかに「内宮」を中心として動いており、「内宮」を訪れた後に鳥羽・志摩市方面へ、あるいは鳥羽・志摩市方面から「内宮」へとルートを選んでいることが明らかとなった.一方で、「外宮」と鳥羽・志摩市方面との行き来は皆無であった.
 さらに、浦田交差点東と二見トンネル西とを経由する観光バスの行き来については、午前は伊勢市内方面が、夕方以降は鳥羽・志摩市方面が相対的に多い傾向がみられた.また早朝には、浦田交差点東よりも二見トンネル西をより多くの観光バスが通過するなど、同様に伊勢市内方面に向かう道路でも、通過したバスの台数が大きく異なる時間帯がみられた.
 これらの結果からは、伊勢市内外をめぐる観光バスの伊勢観光に対する考え方を垣間見ることができる.すなわち、「外宮」で記録されずに「内宮」で記録された95台の観光バスは、「外宮」を素通りした可能性が高いと考えられる.さらに、「内宮」でしか記録されなかった54台の観光バスに至っては、当日「内宮」のみを訪れた後に伊勢市内を去ってしまった可能性を指摘できる.アンケート調査においても、乗務員からですら「内宮以外の観光地を知らない」といった声が聞かれ、伊勢市をめぐる観光バスにおいて「内宮」以外の観光地が注目されてないことが明らかとなった.
 また、浦田交差点東および二見トンネル西を通過した観光バスの台数について、午前中は伊勢方面が、夕方以降鳥羽・志摩市方面が多いことから、伊勢市を観光しながら、宿泊地としては鳥羽市・志摩市方面が選択されている可能性も推測された.早朝の二見浦には、日の出を拝むツアーによるにぎわいもあるが、いずれにせよ以上の結果からは、観光バスにとって伊勢市が「内宮」周囲のみをめぐる日帰り観光地、あるいは鳥羽・志摩市に向かう途中での通過観光地としてしか位置づけられていない可能性が指摘された.アンケート調査においても、「伊勢市内に観光バスを停められる駐車場を持った旅館が無い」という声も聞かれた.伊勢市内に多くの観光客が滞留し、伊勢市自体が宿泊を伴った観光バスの行き先となるために、伊勢市内における宿泊施設整備などが求められよう.
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