日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 319
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地理教育における地球儀の作製とその活用
*谷 謙二
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抄録

1.はじめに
 平成20年度告示の小学校社会科学習指導要領においては,地球儀の活用が地図や統計,年表とならんで5年生および6年生の目標に掲げられた。本研究では,従来の地球儀活用事例を検討し,安価で児童全員が比較的短時間で作製できる地球儀を紹介し,その活用方法を説明する。

2.地球儀の活用状況
 これまでの指導要領においても地球儀の活用に関する記述はなされていた。しかし,指導要領に記述があることと実際の利用には乖離が存在すると考えられる。そこで実際に地球儀がどの程度利用されているのかを,埼玉大学教育学部の学生を対象にアンケートを行って調査した。調査対象は「社会科概説」「地誌学概説」の受講生計175人で,2009年10月に実施した。調査項目は小・中・高校の授業における地球儀使用経験等に関するものである。調査結果(表1)では,小学校の授業で60.0%が使用しているが,中学校では30.3%と低下し,高校では8.6%に過ぎない。  このように地球儀の活用は十分とは言えないが,その理由としては,教材としては値段が高く,多数をそろえることができない,そろえても持ち運びに不便,教室に一つだけ地球儀があったとしても,実際に児童・生徒が手に取って活用することが困難で,教員側で簡単に紹介するしかない,地軸で固定されているため特に南極側から見ることができない,そもそも教員側で地球儀の活用方法を理解していない,といった点があげられるだろう。

3.地球儀の活用事例
 学術雑誌等で報告された地球儀を活用した授業実践を見ると,小学校から高校まで広がっているが,その内容は距離・方位の測定,経緯線・略地図を描くといった内容でかなり共通しており,定型化している。これは発達段階に応じた地球儀を利用した具体的な技能区分が存在しないためである。また使用した地球儀を見ると,市販の教材用地球儀よりも工夫された素材による地球儀が使用されている。そこで筆者は自作できて使用に耐える精度の地球儀を紹介したい。

4.地球儀の作製
 用意する材料は_丸1_プラスチックボール,_丸2_舟形多円錐図法の世界地図(ラベルシートに印刷したもの),_丸3_ピン,_丸4_ヒモ(糸)。このうち_丸1_は100円ショップで10個100円で売られているものを使用した。_丸2_は世界地図ソフトウェア「PTOLEMY」(佐藤善幸氏作,シェアウェア\4,500)を利用して作成し,ボールの円周の大きさに調整して印刷した(図1)。

5.授業
 初等・中等教育で地球儀を活用するには,まず教員側が地球儀を活用できる必要がある。そのため今回の地球儀の作製を,現職教員(教員免許状更新講習時),大学生(「社会科概説」「地誌学概説」受講生)合わせて約200人を対象に行った。授業では,地球儀とミラー図法の世界地図を距離や面積・方位などの点で比較させた。 学生の中には,オーストラリアよりもグリーンランドの方が広いというように,円筒図法で世界を認識している者が多いため,実際に地球儀を活用することによって認識を新たにすることができた。また中にはうまくシールが貼れない学生もおり,小・中学生を対象とする場合はグループに一つとするなどの対応も必要かもしれない。

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