抄録
1.はじめに
国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった民族学・文化人類学の研究所である。ここは、大学共同利用機関として1974年に創設され、2004年4月からは大学共同利用機関法人・人間文化研究機構の一員となっている。これまで、みんぱくでは地理学出身のスタッフも多く、民族地理学(文化地理学)や歴史地理学の研究なども活発に進められてきた。その一方で、みんぱくにある図書室は約60万冊の図書を所蔵して、民族学関係の資料を収集している図書室としては日本で最大規模を有している。現在、これらの資料の多くは、研究・教育のため一般公開をしており、誰でもが利用できるようになっている。
この報告では、みんぱく図書室所蔵の資料のなかで地図に焦点を当てる。なかでも、アフリカの古地図を事例にして、地図からどのような研究を展開できるのか、地図を所蔵することの意義、博物館と地図との関係などについて論じることをねらいとする。これらを通して、なぜ、地図を守らなくてはならないのか、地図の未来への生かし方について言及する。
2.カウフマン・アフリカ古地図コレクションの内容と公開
みんぱく図書室には、貴重資料として「カウフマン・コレクション:アフリカ古地図」全297点が所蔵されている。そのなかには、ミュンスターのアフリカ新地図(1540~42年頃刊)、リビングストン赤道アフリカ探検行程地図(1872)、アフリカの政治地図(1892)、アフリカの水源(1665~78)、喜望峰の景観と城塞とテーブル湾(1748)などが含まれている。
これまで、このコレクションのなかから31点が選ばれて、年代順に展示されたことがある。これは、平成20年10月23日から11月11日に開催された企画展・第3回みんぱく図書室所蔵貴重図書展示(タイトルは『古地図にみるアフリカの変貌』)の一環である。ここでは、16世紀の大航海時代から400年間にわたるヨーロッパ人によるアフリカ認識の変遷が示されている。それに加えて、この古地図コレクションの一部はHP
http://www.minpaku.ac.jp/museum/exhibition/library3/library3_top.htmlを通して外部からアクセスできるようになっている。
3.博物館と地図とのかかわり
みんぱくでの展示には、地図は欠かせないものである。世界の各地域で民族集団の分布図を作成することは必ずしも容易ではないが、民族文化の基礎情報を提供する。報告では、21世紀において博物館で地図を保存することの意義について、地球環境と人類のかかわりの学としての地理学の研究資料としてどのように使うのか、報告者のこれまでのアフリカ地域研究(池谷2009)の事例をふまえて考察する。そして、今後、国立地図学博物館が本当に必要であるのなら、どのような条件を満たさなくてはならないのか、その戦略について考えてみる。
参考文献
池谷和信2009「南部アフリカ-コイサン、バントゥ、ヨーロッパ人-」川田順造編『アフリカ史』山川出版社
池谷和信編2009『地球環境史からの問い-ヒトと自然の共生とは何か-』岩波書店