日本地理学会発表要旨集
2010年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 111
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長崎県の離島における医薬品流通システム
―流通再編と地域への影響(2)―
*中村 努
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キーワード: 医薬品, 流通, 離島, 長崎県
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抄録

I.はじめに
長崎県は全国のなかで医薬品卸の本社数が多く、地場の医薬品卸が独自の営業を継続している。一方、離島では医薬品の需要が少なく、単品あたりの配送料は高くなり配送効率は低い。しかし、医薬品卸は配送エリアとする都道府県内のすべての地域に対する配送態勢を維持するため、離島など条件不利地域においては、都市部とは異なった経営の仕組みのもとで、ローカルな需要に対応していると予想される。本研究では、長崎県をテリトリーとしている医薬品卸を対象にして、低採算地域における医薬品配送システムを明らかにするとともに、維持に向けた課題を考察する。

II.医薬品流通環境の変化
1990年代後半以降、医薬分業が進展した結果、院外処方せんをもとに保険薬局で調剤される医薬品が増加した。分業率は長崎県内では1996年の30%から2004年の60%と倍増した。特に離島を主体とする五島地域では、同時期に12%から55%に43ポイント増加した。これは、患者数の多い五島中央病院、富江病院が院外処方せんを発行したことが大きい。こうした院外処方せんの発行に対応するため、保険薬局のうち90%の薬局が処方せん調剤を行っている。分業率の上昇によって、薬局が扱う月間処方せん枚数は同時期に6,806枚から21,724枚に3倍以上増加した。一方、調剤報酬を請求する薬局数も同時期に6から18に急増した。その結果、1請求薬局あたりの月間処方せん枚数は1996年の1,134枚から2000年に1,485枚に増加したが、2004年には1,207枚へと減少に転じた。このことから、新規発行された院外処方せんの獲得をめぐって新規参入を含め薬局間の競争が激化していると推察される。医薬分業は、五島地域以外の上五島、壱岐、対馬の各医療圏においても進展している。医薬品の配送を担当する医薬品卸にとって、医薬分業の進展は、従来の医療機関に保険薬局が配送先に加わることを意味する。そのため、卸はますます需要予測が困難で分散化する医薬品配送先に対して、従来通りの医薬品供給体制を維持するための格別の配慮が求められている。

III.医薬品卸の経営と流通システムの課題
 各卸の離島への配送体制を概観すると、配送頻度は低く、配送体制における離島間格差も存在することがわかった。医薬品卸の営業所の配置に関して、人口3万人を超える福江島、壱岐、対馬では、卸が営業所を配置して従業員を常駐している一方、人口3万人未満の新上五島町に属する離島などでは、営業所を配置せずに訪問販売で対応している(図)。福江島では、長崎県や福岡県に本社を置く4社が営業所を配置しているが、壱岐や対馬では、福岡県に本社を置く2社のみが営業所を配置して医薬品を販売している。福江島に立地する営業所は、下五島地区(福江島および奈留島)をテリトリーとし、福江島の顧客に対して適宜配送する一方、奈留島へは週1~2回配送している。福江島の営業所在庫は、メーカーからいったん本土にある本社を経由した後、1日1回船便により補充される。上五島地区では、上記卸を含めた6社が月1回~週5回の頻度で訪問販売を実施している。市販される一般用医薬品の場合、どの離島も常駐している卸は存在せず、一般用医薬品専業卸が訪問販売を行うのみである。  長崎県の離島における薬剤師会会員薬局に対するアンケートによると、島内に在庫の医薬品がない、天候の影響を受ける、島外の処方せんに対応できない、地場卸がいないために緊急時に対応できない、などといった流通上の問題点が指摘された。さらに、現在の1薬局あたりの処方せん枚数を維持しようとすると、今後いっそうの人口減少に伴って、薬局が淘汰される可能性が指摘できる。

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