抄録
フードレジーム論は近年注目されるいくつかの食料研究の新たな潮流の1つである。同論の特徴の第一は,食料の輸出国と輸入国という2国間の文脈で食料貿易を把握するのではなく,国際的な基本食料市場を中心とした多国間の枠組みで食料貿易体制を把握することである。また,これまでに食料貿易体制・フードレジームとして,戦前のイギリスを中心とする第1次レジーム(コロニアル・ディアスポリック・レジーム),戦後のアメリカを中心とする第2次レジーム(マーカンタイル・インダストリアル・レジーム),そして現在それへの移行期とされる第3次レジーム(コーポレイト・エンバイラメンタル・レジーム)が示されている。 しかしながら,同論は主として欧米を中心とした議論であり,アジア太平洋地域に対する言及は決して十分ではない。確かに,欧米を中心とした食料貿易圏が相当の規模を持ち,第1次レジーム期,第2次レジーム期を通じて世界の貿易体制を主導してきたことは事実である。しかし,突出した食料輸入大国である日本,巨大な人口を抱え,経済成長のもとで食料輸入を加速する中国,さらにはこれらアジア市場に向けて農産物食料輸出戦略を展開するオセアニア地域など,当該地域における相互依存関係は急速に深化・拡大しているといえる。こうした点から,当該地域の食料貿易の現状を把握し,レジーム論との適合を検討することは重要な意味を持つ。