抄録
本調査は,東日本大震災後,地震,津波,原発事故,風評被害,余震等,多重の災害に見舞われた福島県いわき市に所在する多様な復旧・復興の対応ニーズのなかで,住民と行政の移住・移転と学校教育の課題に着目する.いわき市の借上・仮設住宅に流入する避難者の多くは,原発災害による警戒区域から移住を強いられた人々である.本調査では,就学児童・生徒の移住・転校の状況を把握することにより,子供たちおよび子供を持つ親たちの郷里からの「立ち退き」「強いられた移住」の現況,受け入れ実態,学校教育をめぐる状況や支援ニーズや課題等について議論する.
今次災害による避難転居をめぐっては,成人に対する職住斡旋支援とともに,突然の転居・転校を余儀なくされた児童・生徒そして,子供たちを受け入れる学校・自治体への支援も考慮する必要がある.既に地震・津波・原発事故等に恐怖感を抱いた子供たちの心理的ストレスの大きさは想像に難くない.また,子供が日々通学する地域の小中学校自体が,児童・生徒だけでなく,親・親類が,様々な学校活動を通じて,社会や近隣者と関わりを持つ地域社会の拠点的な機能を有していること(酒川2004)に照らせば,移転を強いられた親子は,新たな移転・避難先の学校において既存のコミュニティ関係に迎え入れられ,そこを一つの拠点・ハブとして,新たな関係性を構築し,それを通じて転入先地域の情報を得たりして,福利の安定化を図ることになるだろう点を考慮して,コミュニティ形成のための支援策を検討する必要があろう.
いわき市では,中央台地区に多数の仮設住宅の建設が進んでいる.現在,雇用促進住宅等の借上住宅に住まう避難者の多くが,これらの仮設住宅へ転入することが予想されている.それにより,2学期を迎える多くの子供たちが仮設住宅地区周辺の学校に転校する可能性もあるという(市教委関係者). 本研究では,こうした刻々と変化する児童・生徒の転入・転出等の実態を捉え,それを通じて,今後,地域の学校を拠点としたコミュニティ形成や支援ガバナンスの創出導入確立等の復興支援にかかる喫緊の課題に即応するための基礎的情報の提供をしたい. そこで,とり急ぎ本発表では,発災以降累次にわたり実施した現地聞取り・収集資料に基づき,最新の状況を提示・速報したい.