抄録
東ポリネシアのクック諸島には,完新世サンゴ礁と海岸平野が分布する.今回,この諸島のラロトンガ島の海岸平野とマンガイア島の離水サンゴ礁について,14C年代測定を行った.これに基づき,完新世の海岸平野・サンゴ礁の地形変化と海面変化にかかわる問題を検討する. ラロトンガ島:この島は平均幅約400mの海岸低地と約700mの裾礁がリング状に取り囲む. 海岸低地は,山麓を縁どる扇状地とこの海岸側にある砂堤列・湿地からなる.南西岸のもっとも幅の広い砂堤列低地において年代測定を行った.砂堤の標高は3m~4mで,サンゴ片や貝殻片を含む砂質のストーム堆積物によって構成されている.砂堤堆積物はシャベルで掘削し,地表下50-100cmのサンゴ片,または貝殻片を採取した.今回,汀線から内陸へ?@70m,?A150m,?B360mの地点で測定を行った結果,それぞれ?@1315±35 BP (JAT-8719, δ13C=0.4‰),?A1825±35 BP (JAT-8720, δ13C=2.5‰),?B2650±50 BP(JAT-8721, δ13C=-0.2‰)を得た.これらの年代と位置から推算すると,汀線から500mの最内陸にある海浜堆積物は3,500~4,000年前ごろとなる.これらが示す離水過程は東岸で得られたものと類似する. マンガイア島:クック諸島ではもっとも南にある.玄武岩山地と更新世の隆起サンゴ礁の周囲を完新世のサンゴ礁が縁取っている.完新世のサンゴ礁は内陸側が離水し,段丘化している.今回,平均海水準上?@1.27m,?A0.644m,?B0.651mにあるマイクロアトールからそれぞれ?@3870±220 BP(JAT-8722, δ13C=-14.3‰),?A5635±45BP(JAT-8723, δ13C=-2.3‰),?B5725±50 BP(JAT-8724, δ13C=6.5‰)の年代を得た.これらの年代と高さはYonekura et al. (1988)の曲線とよく整合する.?A,?Bは,海面のピークより前のもので,海面上昇ピーク時にこれらのサンゴを覆った離水サンゴまたは海浜堆積物がその後の海面低下時に剥離されて,古い地形が露出したものと考えられる.なお,14C年代測定は,日本原子力研究開発機構の「施設共用制度」を利用したものである.