抄録
?T.はじめに
我々は,2008年元旦以降,埼玉県熊谷南郊の大学学生寮(地上高約46m)の屋上と地上で気温の連続観測を継続している.従前は郊外夜間接地逆転強度(屋上-地上気温差)を市街地内に位置する熊谷地方気象台の降水量および風向・風速に基づいて解析してきたが,2009年12月中旬以降,現地における0.1mm転倒枡雨量,5.0mおよび2.4m高度風向風速,放射4成分の同期10分間隔連続が有効になった.欠測を含むものの1年半に亘る観測結果が蓄積され,夜間接地逆転強度と風速および有効放射の関係について予備的考察を行ったので,その結果の概要を報告する.
?U. 有効放射別,風速-接地逆転強度関係
全76519データのうち,下向き短波放射計の出力が負値を示している期間を夜間とし,前12時間の0.1mm転倒枡雨量がすべて0の26877データを有効無降水夜間データとした.感雨計を装備していないので,熊谷気象台より無降水データを過大評価している可能性がある.図1(省略)は夜間接地逆転強度と風速の関係の有効放射別プロットである.最大接地逆転強度16.98℃/100mが2010年12月27日04:20に出現しており,そのときの気象は風速0.869m/s,下向き長波放射214.05Wm-2,上向き長波放射283.76Wm-2,有効放射69.71 Wm-2であった.気象台風速に基づく従前の解析における臨界風速約1.5m/sに比べると,郊外2.4m高度風速に基づく臨界風速は約1/2~1/3の0.8~0.5m/sに減少している.有効放射が80Wm-2を上回る強い放射冷却時には,相対的に強風の場合が多く,接地逆転はほぼ出現せず乾燥断熱減率に近いことが注目される.
?V. 10分平均有効効放射と夜間積算有効放射の関係
接地逆転強度の非平衡性が,夜間接地逆転強度が明瞭な10分平均有効放射依存性を示さない原因の一つになっている可能性がある.図2(省略)は,10分平均有効放射(Wm-2)と日没後積算有効放射(MJWm-2)の関係を,時間帯別にプロットしたものである.日没直後は両者に直線性を認めることが困難であるが,20時台以降は比較的直線関係が存在するように見える.例えば,4時台の回帰式はy=0.0274x+0.6262となり,決定係数は63%を超える.日没後経過時間が大きいほど同じ10分平均有効放射でも日没後積算有効放射は大きくなり,接地逆転強度も大きくなる傾向があるので,夜間接地逆転強度に影響を与える因子としては,日没後積算有効放射の方が優れている可能性がある.図1を日没後積算有効放射別にプロットし直すと図3(省略)を得る.図1に比べると強接地逆転強度時に相対的に有効放射が大きいドットが増えるが,積算有効放射が大きいほど接地逆転強度が強いとは言い切れず,最大接地逆転強度出現時の日没後積算有効放射は2.87 MJWm-2である.
?W. 終わりに
風速が同程度の場合には夜間接地逆転強度は明瞭な有効放射依存性を示す可能性があると想定して解析を行ったが,実際の関係はそれほど単純ではなかった.風速と日没積算有効放射が同程度であっても夜間接地逆転強度にバラつきが生じる原因は不詳である.季節変化・夜間時間変化や移流効果の検討が必要となる可能性がある.学会当日は,これらの点についての若干の検討結果もお示ししたいので,ご協議賜れれば幸甚である.