従来,陸上に遡上した津波が地形や構造物などとの関連のもとにどのような挙動を取ったのかに関する研究はほとんど行われていない.本報告では,2011年3月11日に発生した東北日本太平洋沖地震にともなう津波に関して,被災直後の空中写真にもとづいて仙台平野と石巻平野における津波痕跡を把握し,津波の流動を検討した.
空中写真で判読された仙台平野と石巻平野の津波痕跡から,平野南部では平野の奥行きが浅く,遡上した津波は遡上限界に達したあと,折り返す形でまっすぐに海の方に向けて戻ったと考えられる.引き波(戻り流れ)は地形の低所を選ぶように流れるといった傾向を示し,タイでumitsu et al.(2007), 海津(2011)が明らかにしたのと同様に小河川河口部などが顕著な楔形に浸食された.これに対して,仙台平野の中部・北部では,平野の地表勾配が緩く,内陸に向けて遡上した津波の流れは地表の低い部分を選ぶような形で戻り流れをなしている.一方,石巻平野では海岸に向けてまっすぐに戻る流れはほとんど見られない.平野西部では,内陸から海に向けて戻る流れがかなりはっきりと見られるが,それらは東~東南東方向に流れており,海岸に対しては斜めに戻る形となっている.さらに,東側の平野中央部にかけての地域では,仙台平野と違って平野の奥でも東西方向,すなわち,遡上限界線に沿うように流れたことが示されている.石巻平野において東向きの流れが卓越している現象は,牡鹿半島の影響を受けた仙台湾北部における津波の侵入方向と関係する可能性があり,また,平野の地盤高やこの地域は地震によって東側が沈降するような地殻変動を受けていて,このような変動の影響が東に向けて流れる流れを強めた可能性もある.