抄録
1.目的と調査方法
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による地震動・津波・福島原子力発電所事故は,東日本の多くの学校に被害を及ぼした。報告者らは岩手県・宮城県・福島県内の沿岸地域を対象に,これら被害を受け,地理(社会科)教材支援が必要と思われる学校を特定するための緊急調査を実施したので,その結果を報告する。方法としては最初に,日本地理学会災害対応本部作成「津波被災マップ」並びに都道府県・市町村教育委員会情報等を基に,津波被害を受けた学校・原子力発電所事故で避難した学校をリストアップした。続いて6月中旬,現地観察調査とともに,被災地の学校(高校3校,中学校1校,小学校1校)並びに教育委員会(岩手県大槌町・宮城県石巻市)を訪問し支援希望について聞き取り調査を実施した。
2.教材支援が必要と想定した学校
リストアップしたのは3県34市町村のうちの小学校85校,中学校37校,高校20校であり,合計では142校となった(表1)。報告者らが入手可能であった情報に基づいていること,地域・学校により被災状況は様々であるため確定的な数ではないが,3県に限っても多くの市町村・学校が支援対象候補であることは明らかである。岩手・宮城県では津波による被災であり,教材等が散逸していたとしても同一もしくは近隣市町村の建物で学校は再開されている。一方,福島県の場合は,原発事故による避難地域指定に伴うケースがほとんどである。この場合,県立高校は避難生徒が多い幾つかの地域にサテライト校が設けられている。しかし,小・中学校の多くは,住民・子どもが分散して避難しているため実質的に存続・機能していない。
3.地理(社会科)教材支援の希望例
聞き取り調査からは,児童・生徒が使用する一般的な文房具や教科書(地図帳)はほぼ供給され,掛け地図など個別教科で使用する専門的な教材・教具が希望されていることが分かった。したがって日本地理学会や地図センターが実施している地理教育に絞った教材支援活動は,評価を得ている。しかし,地域によっては学校が機能しておらず,管轄教育委員会を支援窓口とするしかない実態がある。
*本調査は,東京地学協会東北地方太平洋沖地震関連緊急研究助成「震災後の学校教育復旧・復興過程における地理授業支援策構築のための臨床的研究」(代表:山縣耕太郎)を受け遂行したものであり,成果は被災校支援活動を行っている日本地理学会大震災タスクフォース委員会及び日本地図センターに提供した。