抄録
報告者らは,2010年9月に, A大学・大学院を1994年3月~1999年3月に卒業・修了し,調査時点で東京圏に居住していた男性3,500人,女性1,000人に調査票を配布し,全体で628人(14.2%)の回答を得た.このうち,高校卒業時の居住地も東京圏内であった人は81.4%に上っており,対象者の大半は「郊外第二世代」といえる.なお,A大学の2009年度入学者の東京圏出身者比率は約65%であった.特定の大学の卒業生を対象としていることや,「郊外第二世代」に偏ったサンプル構成になっていること,調査票の回収率が高くないことなどにより,本稿が提示する知見は「郊外第二世代」の居住経歴の一般像を示すものではない.しかし後の研究にとっての橋頭堡としての役割は果たし得ると考える.
対象者の11%が単独世帯を形成する未婚者,9%が親と同居の未婚者,17%が子どものいない既婚者,61%が子どものいる既婚者であった.未婚者では,30歳代となった現在でも実家に住んでいる例がかなりみられる.既婚者の結婚以前の居住経歴をみても,結婚が離家の重要なきっかけとなっていた.一方既婚者の57%はすでに持家を取得しており,結婚から比較的短期間で持家を取得する傾向にある.子どもがいる世帯では,戸建持家に居住する世帯が集合持家に居住する世帯を上回っており,子育ての場としての戸建住宅の人気は根強いようである.既婚者について,大学卒業直後,結婚直前,結婚直後,現在の各時点について居住地の分布を比べると,いずれの時点でも大半が都心から40km圏内に分布しており,ライフコースの進展にともなう居住地の郊外化は不明瞭である.都心から40km以遠に持家を取得した例は少なく,とりわけ集合持家居住者は東京都区部に卓越している.親と同居をしている既婚者は7%に過ぎないが,既婚者の39%は夫婦いずれかの親の住まいから5km圏内に居住しており,これを10km圏内に広げると54%に達する.非大都市圏出身の「郊外第一世代」は,親を出身地から呼び寄せない限り,大都市圏内での近居は不可能であった.これに対して「郊外第二世代」では,大都市圏内で居住地選択をする際に親の住居の位置が一つの参照軸となり,居住地選択にかなりの影響を及ぼしているとみられる.こうした点に留意しつつ,当日の報告では対象者の居住経歴についてより詳細な分析を披露したい.