日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 212
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Decision-tree model を用いた斜面崩壊発生地の推定
-台湾 Baichi watershed を対象として-
*齋藤 仁Chang Kang-Tsung小口 高
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抄録

1 はじめに
斜面崩壊の発生と地形・地質との関係を解析し,斜面崩壊の起こりやすさを評価する研究が多く行われてきた.特に広域を対象とした場合には,GIS やリモートセンシングの利用が有効である.またSaito et al. (2009, Geomorphology) は,データマイングの一つであるdecision-tree model を用いて,斜面崩壊が起こりやすい流域の推定手法を確立した.しかし,Saito et al. (2009) は赤石山脈のみを対象としており,より多くの場所でdecision-tree model の検証とその比較が必要であると言える.
本研究では,降雨に起因した斜面崩壊が多数発生する台湾を対象に,decision-tree model を用いて斜面崩壊の発生と地形・地質との関係を解析し,斜面崩壊発生地の推定を行った.

2 方法
対象地域は,台湾北部のBaichi watershed (120 km2)である.用いたデータは,1992 年の空中写真判読より得た斜面崩壊の分布,数値標高モデル(DEM,40m メッシュ),デジタル地質図である(Chang et al., 2008 ESPL,Chiang and Chang, 2011,Geomorphology).
まず,DEM を用いて,対象地域を138 個の山地小流域に分割した.また,山地小流域ごとに,斜面崩壊データと地形データ(標高,傾斜,prole curvature,plan curvature,侵食高,未侵食高),地質データを統計解析した.次に,decision-tree model を用いて,斜面崩壊が起こりやすい流域を推定した.
Decision-tree model は,その推定過程がtree 構造として明示さる特徴を持つ.そこで,tree 構造からBaichi watershed における斜面崩壊の発生と地形・地質との関係を考察した.

3 結果と考察
Decision-tree model を用いて斜面崩壊発生地を推定した結果,10-fold cross-validation による正解率は78.3%であった.この値は,既存研究とも遜色ない結果である.
斜面崩壊発生地を推定するtree 構造を図1 に示す.Tree 構造からは,斜面崩壊が発生する山地小流域(図1,[1])は,傾斜の平均が約34°より大きく,地質がShihti Formation ではないことが示された.この傾斜に関する結果は,日本の赤石山脈での研究(Saito et al., 2009)や,台湾における研究(Oguchi et al., 2011, Geomorphometry 2011)とも整合するものである.

傾斜の平均が約34°以下の場合には,数は少ないものの,侵食高の標準偏差が大きく,かつplan curvature とprole curvature ともに直線斜面が少ない場所で斜面崩壊が発生することが示された(図1,[5]).

今後はtree 構造を詳細に解釈するとともに,Baichi watershed 周辺の流域を対象とし,広域でのdecision-tree model の構築と,その比較・検討を行う予定である.

謝辞
本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金特別研究員奨励費(No. 23・148)により実施した.

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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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