日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 408
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東日本大震災被災地:岩手県山田町における住民の買い物環境と食品スーパーの対応
*佐々木 緑岩間 信之田中 耕市駒木 伸比古池田 真志浅川 達人
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抄録

1. はじめに 本稿は,東日本大震災の被災地の一つである岩手県下閉伊郡山田町を取り上げ,住民の買い物環境の現状と食品スーパーの対応について報告する。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震と津波後の被災地においては,家屋や商店街の流出・浸水,交通網・ライフラインの遮断などのため,炊き出しはあったものの,震災当初は食料の分配に不平等が生まれた地域が多々みられた。また,被災地はその地形条件ゆえに,食品スーパーの立ち並ぶ中心地の多くが壊滅的な被害を受けたところも少なくない。生活用品を無償提供した避難所が閉鎖され,仮設住宅への入居が進むと,住民の生活環境はさらに悪化すると懸念される。被災地における食供給の実態,ひいては住民の栄養状態の把握を行い,その改善策を提案することが本研究の意図するところである。本報告は,6月および8月に実施した現地調査に基づく。 2. 山田町の被害状況と住民の買い物環境の問題点 山田町は,盛岡市から南東に120kmの沿岸に位置し,約1万8,000人が暮らす漁業の盛んな町である。山田湾を囲むように広がる,狭い平野部に町の諸機能が集中していたが,地震,津波,火事によって中心部の8割ほどの機能が失われた。 震災当初は9,000名にのぼる避難者がいたが,仮設住宅への入居が6月に開始されて以降,避難所も徐々に閉鎖されている。しかし,2011年7月19日現在,24の避難所に1,764名の避難者がいる。その理由の一つとしてあげられるのは,仮設住宅の立地である。地形的制約のため,仮設住宅の大半は山間部に分散して建てられている。移動手段を持たない場合,周囲に食料品店のない仮設住宅では食品入手が困難である。また,地域コミュニティの分散と高齢者の孤立も懸念される。被災自体は免れた世帯でも,買い物環境の悪化は深刻である。在宅通所と呼ばれる「在宅で給食や物資の支援を受けている人(岩手県庁資料)」が町内に879名いることからも,食料などの入手が困難な状況が見て取れる。避難所が閉鎖後,食品入手が困難な人々が急増すると予想される。 3. 食品スーパーの被害とその対応 震災前,町の中心部にあったスーパー,個人商店はほとんどが流失した。震災後,スーパー数社と生協が移動販売車や買い物バスを運行させた。しかし,採算性などの理由により,巡回範囲は限定的である。すでに移動販売車事業をとりやめた企業もある。6月ごろからは,わずかではあるものの,仮設店舗で営業を再開する食料品店もみられ始めた。地元スーパーは流失を免れた病院内で営業を再開し,地元商店街は公園内に合同でマーケットを開設した。個人商店の中には,残った蔵を利用し細々と営業する店もみられる。今後は,避難所の閉鎖と仮設住宅の本格始動後における,買い物が困難な住民への対応が求められている。 現在,地元行政は様々な対応に追われており,住民の現状把握や今後の都市計画の青写真作成にまで対応しきれていない。食品スーパーも,被災者の分布や食料品の需要量を把握できていない状況にある。現地調査やGISによる地図化・空間分析などの地理学の技術は,被災地における買い物環境改善の一助になるものと考える。

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