抄録
放射線が人体へ及ぼす影響を考える際には,被ばく放射線量を正確に推定する必要がある。その被ばく放射線量の推定には,爆心地からの距離と,遮蔽(放射線を遮るものの有無と材質など)について正確に把握する必要がある。しかしながら,地図や空間解析技術の制約により,これまで爆心距離(地上距離)は100mメッシュ単位での精度であった。そこで本研究では,より正確な評価を行うために地理情報システム(GIS)を用いて1地点(家屋単位)での分析を目指している。なお用いたGISソフトウェアはESRI社のArcGIS9.2である。作業手順の概要は以下の通りである。 1)ベースマップの選定。 2)番地記入作業。3)幾何補正。4)広島原爆被爆者データベース(ABS)被爆地点情報との照合による被爆位置の決定とデジタイジング。5)爆心距離の算出。
上記の作業により,2011年3月末までに10,647件の被爆位置を特定した。100mメッシュ単位で算出した距離との差は平均25.3mであった。これまでに用いていた地図の精度や手法などに鑑みると,その分だけ精度が改善したと考えられる。今後は今回算出した距離にもとづきDS02方式による被ばく放射線量の推定が求められる。また,1.ベースマップとして地図の精度(地番の記入に用いた地図との整合性を含む),2.被爆建物の減少などによる幾何補正の精度,3.ABSに記載されている被爆地点情報の精度,などについても検討する必要がある。