日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 701
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大規模事業所からのCO2排出量の地域的特性
東京都を事例として
*石原 肇
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抄録
_I_ はじめに 地球温暖化防止対策は,世界各国において重要な課題となっている.このためEUでは2005年から産業部門を対象とした,またアメリカ合衆国では北東部10州により2009年から発電所を対象とした温室効果ガスのキャップ&トレード型排出量取引制度が実施されている.日本では2010年4月から東京都が環境確保条例に基づき大規模事業所を対象としたCO2排出量の総量削減義務と排出権取引制度を導入した.この制度は世界で3番目となる温室効果ガスの削減義務制度であり,業務部門をも対象とした世界で初めての都市型キャップ&トレードである. 東京都は総量削減義務化に至るまでの間,環境確保条例に基づく地球温暖化防止対策計画書制度(以下,計画書制度という)により大規模事業者に対して自主的なCO2排出量の削減を求めてきた.その際に,個々の大規模事業所におけるCO2排出量の実績値を把握することを大規模事業者に対し求めてきた. これまで日本におけるCO2排出量に関する地域的研究は,全国市町村における民生部門の家庭部門,小規模事業所を考慮した民生部門の業務部門,建設業のCO2排出量の推計がみられる(中口2004,中口他2005,中口・飯田2007).しかし,大規模事業所のCO2排出量の実態を把握することを目的とした研究はみられない.そこで本報告では,東京都を研究対象地域として,大規模事業所からのCO2排出量の地域的特性を明らかにすることを目的とする. _II_ 研究方法 本稿で用いるデータは,以下のとおりとする.大規模事業所は年度ごとにCO2排出量の実績値を報告している。これらの大規模事業者からの届出は東京都がホームページで公表している。そこで本研究では大規模事業所からの2007年度のCO2排出量の実績値を用いることとする.都内では23区および26市により瑞穂町を含む50区市町ごとの2007年度のCO2排出量が2010年に初めて公表された.この50区市町ごとのCO2排出量総量を用いて当該区市町に立地する大規模事業所からのCO2排出量と比較する.あわせて大規模事業所が,当初の計画書において記載した過去の排出実績に基づく基準排出量と2007年度のCO2排出量とを比較し,用途ごとにどれだけの増減があったかを把握する. _III_ 結果 第一に,大規模事業所は区部の都心部に多く立地しており,その用途はテナントビル,事務所,商業施設などの業務用途が多くを占めていた.一方,都心部から離れた地域では,工場などの産業用途の大規模事業所が多くを占める場合が多い傾向にあった. 第二に,大規模事業所の立地は都内に均一ではなく,集中している区市町とそうでない区市町がみられた。大規模事業所が特に集中している区市町である千代田区,港区,羽村市,瑞穂町では,当該区市町で排出されるCO2総量のうち大規模事業所からの排出割合が40%以上を占めており,計画書制度による大規模事業所の取組結果が大きく影響する地域であると考えられた. 第三に,2007年度時点での排出量削減の状況は用途により差異が見られた.産業用途ではいずれの用途もCO2排出量の平均値は基準排出量より減少しており,概ね対策の効果がみられた.一方,業務用途ではテナントビル,商業施設,宿泊施設,医療施設ではCO2排出量の平均値は基準排出量より減少していたが,事務所や教育施設では基準排出量と比べてCO2排出量の平均値は上回っていた.
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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