抄録
研究の概要
本州や四国、九州では、旧来、村落共同体の通行や生活の場として用いられてきた「里道」をフットパスとして再生する試みが各地で行われているが、北海道は状況が少し異なっている。明治時代、山林、原野、河川、海岸等の大半は官有地に編入され、そのうえで人民への払い下げや貸付がなされており、そもそもアイヌの人々の土地であったことから、現在の住民にとって歴史性、共有性のある道は限定的である。ただ、北海道では、市民単独ないしは市民と自治体の協働事業としてのフットパスの設置は、他の地域と比べて非常に活発である。
本研究では、北海道におけるフットパス事業が、どのような社会的文脈において展開していったのかを概観し、その上で北海道を代表するフットパスである根室フットパスなどのいくつかの事例から、フットパス先進国である英国とは異なる北海道の取り組みの特徴と問題点を指摘する。
研究内容
各地のフットパス事業においては、「2つの軸」(フットパス周囲の地権者の数、地方自治体の積極性)と「4つのアクター」(自治体、NPO&ボランティア、地権者、利用者)が織りなす関係構造が、その発展過程や問題発生を説明するカギとなっている。北海道においては関連地権者が少なく、自治体よりは市民の積極的な関与が目立つ。そのような市民参加を促進させたのが、北海道におけるフットパスの有力な支援者NPO法人エコ・ネットワーク(札幌市)である。
このNPOが仕掛けた2002年のフォーラムを発端にして、道内各地のフットパス実践団体の集合体である「全道フットパス・ネットワーク準備会」が設立されたりするなど、関係者がネットワークを構築し、30以上のフットパスが設置されていった(表1参照)。北海道のフットパスは、他の地域と異なり私有地内を通るものも少なからずあり、(1)復元された旧道や山道、(2)旧国鉄等の廃線跡、(3)牧場や農場、(4)けもの道などを利用するものもある。ここ数年は、大手旅行会社が団体ツアーに組み込むなどにより利用者が増加し、事業者・地権者との交流のみならず、事業者側の理念にそぐわない行為や、地権者のプライバシーの喪失といった矛盾を抱える事態も生じている。