抄録
1980年代以降木曽漆器の生産体制は座卓など大物の製造から消費者ニーズに対応する小物の生産などへ移行する傾向にあった。それと同時に日本の漆器産地は中国への委託生産を始めた。中国産製品との競争の中で現在の産地はどのように維持されているかを明らかにしたいと考える。アンケート及び聞き取り調査を通して、家具製造中心の木曽漆器は小物の大量工業生産の波に乗り遅れたが、他産地の小物製造の供給によって消費者ニーズに対応してきたといえる。一方、家具製造においては、中国での委託生産を率先して始め、大手問屋としては大きな成功を収めた。産地自体は伝統的漆器の製造を堅持して樹脂製品などの製造に移行していないが、他産地への委託生産と発注によって安価な漆器製造部門が補完されている。工賃仕事が減少している中で、職人は自ら販売に関わらなければならなくなり、作家活動の性格を強めていく。生産構造のなかに外部に委託する部分が大きく産地を支えているが、木曽漆器というブランドを保持していくにはどのように再構築していくかは重要な課題となっている。