抄録
1.はじめに
日本では,1990年代以降,顕著な高温傾向が頻出し,特に,2010年夏季には全国的に気温が高く,1898年以降で最も高温な夏となった。観測開始以来の高温記録を更新した観測地点も多い(気象庁「2010年(平成22年)の日本の天候」)。地球温暖化により様々なコストと便益が生じることが予測され,人間の健康への影響も指摘されている(IPCC,2007)。
本研究では,特に高温であった2010年夏季の死亡率にどのような特徴があるのかについて調べ,気候が死亡にどの程度関連するのか明らかにすることを目的とする。
2.研究方法
使用したデータは,人口動態統計月報(概数)(厚生労働省)と,日本の月平均気温の平年差(気象庁)である。月別,都道府県別死亡状況の比較を行うために,1日当り,人口10万人対の死亡率を算出し,以下の分析に使用した。また,60歳以上の死亡数を60歳以上人口で除した死亡率(1日当り,人口10万対,60歳以上)も算出し,人口構成が異なる都道府県別死亡率の比較を行った。
日本では,高齢化が進行し,粗死亡率は上昇傾向にある。死因の構成比も徐々に変化している。本研究では,2001年から2010年までの10年間のデータを分析対象とし,10年間の死亡率の変化を月毎に把握し,2010年夏季の状況を調べた。
3.2001年から2010年までの月別死亡率の変化
月別死亡率は,いずれの月も変動しながら上昇傾向にあり,夏季の死亡率は他の季節と比べて最も低く,年による変動も小さい(図1)。2001年から2010年までの,日本の月平均気温平年差(図2,17地点平均(気象庁)による)と,同月または翌月の死亡率に有意な相関関係(有意水準5%)が見られた月は4月のみである。
4.2010年夏季死亡率と2009年夏季死亡率の差
2009年夏季死亡率は,前年よりも低下(7月)か,ほぼ同じ(8月)であった(図1)。2010年夏季に,2009年夏季よりも死亡率(1日当り,人口10万対,60歳以上)が,特に上昇した県は,群馬県,三重県,青森県,宮城県,長崎県,奈良県,愛知県,島根県である(図3)。逆に, 2009年夏季に比べて2010年夏季の死亡率の上昇が顕著ではない県は,宮崎県,鹿児島県,熊本県,鳥取県である。