日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1610
会議情報

飛騨山脈槍穂高連峰南岳周辺のロウブ地形における地温と斜面物質移動の観測
*青山 雅史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
1.はじめに
飛騨山脈槍穂高連峰南岳(標高3,033 m)稜線部には,地形的規模や表層構成物質の異なる複数のタイプのロウブ地形が存在する.本研究では,1)それらの地形が現在も流動している現成のものであるのか,過去の寒冷な環境下に形成された化石地形であるのか,2)それらのロウブ地形と永久凍土との関連などを明らかにするため,それらのロウブ上において地温と斜面物質移動の観測をおこなった.
2.調査地域および方法
南岳山頂部稜線西側の周氷河性平滑斜面上には複数のタイプのロウブ地形が存在する.本研究では,1)表層部は細粒物質を欠いた長径30~80cmの角・亜角礫からなり,斜面最大傾斜方向の長さ13m,幅12m,末端部の比高3~4mの「舌状岩塊地形」,2)表層部は細粒物質を欠いた長径10~20cmの大礫が卓越し,長さ10m,幅12m,末端部の比高0.7~1mの「礫質ロウブ」,3)表層部は細粒物質に充填された角礫層からなり,長さ7m,幅6.5m,末端部の比高0.3~0.4mの「土質ロウブ」の3つのロウブ地形上において斜面物質移動の観測をおこない,舌状岩塊地形と土質ロウブ上では地温観測を実施した.
斜面物質移動に関しては,1)上記ロウブ地形上におけるペンキラインによる地表面物質移動の有無および地表面物質移動量の観測を2008年10月~2009月10月におこない,2)土質ロウブのみ,グラスファイバーチューブを用いた垂直断面からみたロウブ表層部の斜面物質移動量の観測を2009年10月~2010年9月におこなった.地温に関しては,1)土質ロウブにおいては2008年10月~2009年10月に地表面と30cm深,2009年10月~2010年10月に地表面,10cm深,40cm深の観測をおこない,2)舌状岩塊地形では,2008年10月~2010年10月に地表面温度の観測を実施した.また,それら観測地点近傍の南岳小屋において,2008年10月~2010年10月に気温の観測をおこなった.それらの地温・気温観測は,ティーアンドディ社製小型自記温度計TR52を用いておこない,測定間隔は1時間とした.
3.結果および考察
ペンキラインによる斜面物質移動の観測の結果,表層部が細粒物質を欠いたロウブ(舌状岩塊地形と礫質ロウブ)では流動は生じておらず,細粒物質に充填された角礫層からなる土質ロウブにおいてのみ流動が生じていた.したがって,それらの細粒物質を欠いたロウブは過去の寒冷環境下に形成・発達した化石地形であり,細粒物質に充填された角礫層からなる土質ロウブのみが現在も形成中の現成の地形と判断される.この土質ロウブ上の測線(斜面傾斜角21°)において5cmごとに移動量を計測して求めた年平均移動速度は4.9cmであり,飛騨山脈白馬岳周辺(相馬ほか1979)や赤石山脈間ノ岳(Matsuoka1998)などで得られている斜面物質の移動速度よりもやや小さい値となっている.これは,本調査地では,地面の凍結融解が活発に生じる秋季と春季に積雪の影響を受けていることが地表面温度の観測結果から示唆されており,地表面での1年間の凍結融解回数が20回とそれらの山地よりも少ないことに起因しているものと考えられる.土質ロウブにおけるグラスファイバーチューブの斜面下方への変位は21cm深以浅で生じており,9cm以浅で変位量が増加するコンケーブ型の変位が生じ,地表面でのチューブの変位量は3cmであった.土質ロウブ30cm深,40cm深では日周期性の凍結融解は生じていなかったことから,土質ロウブでの斜面物質移動はおもに日周期性の凍結融解作用により生じている可能性が高い.
2008年10月~2009年10月の舌状岩塊地形と土質ロウブにおける年平均地表面温度はそれぞれ-0.2℃,-1.0℃,土質ロウブ30cm深の年平均地温は-1.0℃であり,南岳小屋における年平均気温は-2.9℃であった.これらのことから,本調査地は永久凍土域と非永久凍土域の境界領域付近にあるといえる.現在よりもやや寒冷であった完新世の寒冷期には,本調査地に永久凍土が発達し,舌状岩塊地形や礫質ロウブの流動・発達が生じていた可能性がある.
引用文献
相馬ほか(1979): 地理評, 52, 562-579.
Matsuoka (1998): Permafrost and Periglacial Processes, 9, 397-409.
著者関連情報
© 2011 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top