日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1103
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高等学校地理教育に関わる現職教員研修の現状と課題
埼玉県の場合
*浅川 俊夫
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抄録
埼玉県の場合、高等学校地理教育に関わる内容の教員研修は、二つの公的機関・団体によって実施されている。これらの研修は、一部を除き、いずれも出張として扱われ、旅費等も所属校から支出される、いわゆる公的な現職教員研修(以下、教員研修)である。  二つの公的機関・団体のうち、県立総合教育センターが実施している教員研修は、初任者研修や5年経験者研修などの年次研修・経験者研修、対象者が所属長などの推薦をうけた者に限定される特定研修、希望者を対象に指導力向上を目指して幅広い知識・技能の習得を目的とした専門研修などがある。このなかで、地理教育に関する内容が含まれているのは、ここ数年間では、施設や人、予算などの制約から、年次研修・経験者研修に限られており、その内容は、研修受講者の授業あるいはベテラン教員の授業をもとにした授業研究や、評価の視点を重視した指導案作成の演習など、授業構成・指導方法が中心となっている。 もう一つの教員研修は、埼玉県高等学校社会科教育研究会地理部会が実施している。この研究会は、県内にある、国立を除いたすべての公私立高校の地理歴史・公民科教員を会員として構成され、埼玉県からの助成をうけている団体である。地理歴史・公民の各科目ごとに部会を組織し、各学期で、それぞれ研究例会を開催している。このうち地理部会では、ベテラン教員の授業をもとにした授業研究に加えて、県内の臨地研究や会員の研究発表、地理教育・教科内容に関する専門家の講演など、教科内容に関する研修も取り入れている。  こうした現状を踏まえ、教員研修に関する二つの課題を指摘したい。  その一つは、教科内容に関する研修の充実である。 団塊世代に属する多くの地理教員の退職が続く一方で、すでに指摘されているように、大学で十分な数の地理系科目を学ぶ機会のなかった若い教員の採用が増えつつある。また、現在の高校現場では、少数の学校を除き、日本史や世界史、公民を専門とする教員も地理科目を担当せざるを得ない状況がある。こうした教員が、自然地理や野外調査の方法、地図の活用などに関する基礎的・基本的な内容を学ぶための研修の充実が急務であると考える。また、そのためには、学会や地理学教室を持つ大学が指導者の派遣や施設の提供などの面で支援する態勢が必要である。  もう一つの課題は、研修機会の確保である。  近年、高校現場の多忙化が進んでいる。埼玉県でも、参加義務のある年次研修・経験者研修は別として、既述した地理部会研究例会の参加者は減少傾向にある。また、従来、長期休業中に広く認められていた個人単位での研修の扱いが厳しくなっている。 その一方で、最近では、大学の地理学教室などによる現職教員を対象とした公開講座が増加している(例えば、立正大や専修大)。これらの開講主体と教育委員会が連携することで、一定の用件さえ満たせば、教育センター等が実施する教員研修と同等な扱い、または簡単な手続きで研修と認められるような条件の整備が求められている。
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