日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1201
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公開シンポジウム:新時代を迎える学校地理教育の課題と展望
-開催趣旨と現状認識-
志村 喬*井田 仁康
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キーワード: 地理教育, 学校, 課題, 展望
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抄録
1.趣旨  本年(2011年)4月から小学校で新学習指導要領が完全実施され,次年度以降は中学校,高等学校でも施行される.今次改訂学習指導要領では,地誌学習と地図・地域調査スキルの重視,社会参画能力の育成要請などが重視され,近年の学校地理教育と異なる方向がみられる.この新しい時代を迎える学校地理教育は,理論的にも実践的にも対応を求められている. これまでも日本地理学会は,地理教育に対して大きな関心を持ち,様々な活動を行ってきた.とりわけ1990年代以降は,学会組織面のみならず,公開講座・シンポジウム等の事業企画でも活発化している.とりわけ,2006年に創刊されたE-journal GEO誌に設けられた原稿種別「地理教育総説記事」には第5巻1号までに5編が掲載され,初等・中等・高等教育に加え,社会教育も射程にいれた論考もみられる. この新しい時代を迎えるに際して地理教育専門委員会は,E-journal GEOにおいて地理教育特集号を特別号として企画(編集中)するとともに,学校地理教育の現状と課題について非会員をも含む地理学・地理教育関係者が集い討議することで,現状への共通認識と展望を得ることを目的として本公開シンポジウムを開催する. 2.学校地理教育をめぐる現状 日本における地理教育の現状としてあげられる第1の特色は,小学校では学校の周囲から都道府県レベルの学習が主であり,中学校では日本,高等学校では世界の学習を主としていることである.すなわち,学習対象の空間的範囲が,いわゆる同心円的拡大となっているのである.むろん,小学校でも日本全体,世界についても扱うが主となるのは身近な地域(郷土)である.中学校では,日本を理解するために世界の学習をするという位置づけであり,日本の学習を主としていた.しかし,平成20年度版学習指導要領では,中学校では日本,世界の双方の学習を主とすることに変わった.これは高等学校での地理履修者が多くないことを反映した結果としてみることもできよう.高等学校では世界地理が主となる位置づけは変わらない.他方,中学校でも高等学校でも身近な地域の地域調査は,学習指導要領レベルでは重視されている.地理の醍醐味の一つは,地域調査にあるが,学習指導要領では重視されながら,現場の教員からは授業では実際に地域に出て調査することは少ないという声が聞かれる. 第2の特色は,現代の地理的事象やそれらの構造の理解が重視されていることである.地理的な現象を理解して,そのうえでどのように社会を改善しいったらよいのかという,いわゆる態度的育成については,探究されないことが多い.学習のプロセスとして,課題把握(授業のテーマとしての課題把握),資料の収集・整理,分析・解釈,まとめ,価値判断・意思決定,社会参画といった流れが考えられるが,日本の地理教育では課題把握からまとめまでは行われるが,価値判断・意思決定,社会参画といった側面はあまりなされてこなかった.学校段階ではしっかりと知識を蓄積し,価値判断以降のプロセスは,社会にでてから担うものであるとみなされていた.しかし,世界的にも地理教育における価値判断・意思決定,社会参画は重視され,現状を踏まえながら将来を考える地理教育が促進されている.一方で,限られた学校教育の時間内で社会参画が最終的な目標となると,その行動を裏付ける資料の収集,分析・解釈,換言すれば基礎的知識の習得がおざなりになる可能性も否定できない.こうしたなかで,学習プロセスの中で地理教育がどこまで担うのか,日本の地理教育が考えるべき問題である. 第3の特色は,地理教育を専門とする社会科教員が少ないことである.小学校では,地理的内容が多く,中学校でも社会科ではあるが,地理的分野として確立している.しかし,地理を得意とする教員が少なく,地理を苦手とする教員が多いとなると,楽しい地理学習が行えないという危惧があり,地理嫌いの子どもを増やす原因ともなりかねない.  このような現状をふまえながら,社会科・地理カリキュラムと地誌,地理教育でのスキルと社会,評価・学会活動と世界的動向という3部構成により,課題を明らかにし,新時代における学校地理教育の展望を図りたい.
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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