抄録
本研究は,明治期の最初の市制施行都市の一つである富山県高岡市に関して明治期から1950年代頃までの間に発行された近代民間都市地図を対象として,その発行状況を把握するとともに,各地図の地誌的表現内容を分析した。研究対象となる地図としては,高岡市立博物館と富山県立図書館の所蔵品を用いた。この試みは,山根(2008)における富山県富山市および石川県金沢市の民間都市地図研究の成果を継承しており,県都ではないが地方の有力都市であった高岡において,左記の研究と同様の検討・考察を試みたものである。近世城下町であり,近代以降も県都としての地位を築いていた金沢や富山に比べて,高岡での都市地図刊行は遅れた上,その点数も少なかった。とはいえ,各時期に両都市同様の都市図が地元の書肆により発行されていた。内容的には,比較的平凡な平面図が主であった。また,主図の裏面に「名所案内」として市内の場所の写真とその説明文が掲載されたものもみられた。市外で発行された外来の高岡地図としては,有名な東京交通社の『職業別明細図』が発行されたほか,吉田初三郎による鳥瞰図も製作された。平面図ばかりの民間図のなかで,初三郎絵図は高岡市民に都市の俯瞰的景観を提供した点で意義深い。内容分析については,地図そのものや地図に付帯する「名所案内」や「商工名鑑」のテキストや写真を対象に,それらで取り上げられた高岡の各場所について,その場所や景観的な意味を解釈した。さらに出来れば,近代期に発行された絵葉書の画像を民間地図と組み合わせて分析し報告する予定である。