抄録
近年,日本では観光による社会・経済的な波及効果が注目され,地域の観光振興のための様々な施策が必要とされている.観光施策の立案や遂行における意思決定の前段階では,地域の客観的な構造を示す統計情報が有用な資料となる.本研究では,日本全土における観光資源の分布特性や地域の観光資源特性を,地域統計学の手法を用いて分析し,明らかにする.まず,各都道府県別に観光資源の評価ランクを考慮した重み付き観光資源保有数を計算した.そして,全ての観光資源タイプ別の保有数に対して,ジニ係数を算出した.その結果,観光資源タイプによって地域偏在性は大きく異なり,一つの地域にしか分布していない観光資源から,全国的に分布している観光資源まで,様々なタイプがみられた.地域偏在性の特に高い観光資源は,原野,社寺・庭園・公園,博物館・美術館であった.地域偏在性のとりわけ低い観光資源は,年中行事,社寺,植物であった.次に,各地域がどういった観光資源タイプに特化しているのかを把握するため,地域の観光資源タイプ別保有数における特化係数を算出した.そして,特化係数が似た傾向にある地域同士を階層的クラスター分析によって要約した結果,陸域型自然資源(山岳,滝,高原など)に特化した地域クラスター1,海域型自然資源(海岸,岬,岩石・洞窟など)において特化した地域クラスター2,都市人文資源(社寺,博物館・美術家,庭園・公園,史跡)に特化した地域クラスター3,複合的資源構成(島,建造物,歴史景観,動植物園・水族館)に特化した地域クラスター4の,4つのクラスターを抽出することができた.さらに,各クラスター内地域同士の立地特性には,それぞれで特徴的な空間パターンがみられた.クラスター1は中部地方から北海道にかけて地域同士が近接かつ連続し,クラスター2は全国的に分散,クラスター3は関東・近畿地方の大都市圏,クラスター4は主に瀬戸内海の周囲に立地していた.最後に,地域の観光資源の性質的側面と数量的側面から地域特性を分析するため,観光資源構成の偏り度合いを示す特殊化係数と観光資源の重み付保有数の2次元座標を作成したところ,各クラスターあるいは各地域によって,その特徴は様々に異なっていた.しかし,共通にみられる特徴として,観光において全国的に有名な地域ほど,観光資源保有数が高い傾向にあり,それらのなかで特殊化係数が高いものと低いものに分かれた.観光資源分布の地域的偏りは,全体的な視点からみれば,地域の観光資源の特色を決定する要因となっている.