日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の175件中1~50を表示しています
発表要旨
  • 越山 大貴
    セッションID: 618
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    ドイツの「風の道」計画は,冷気流を市内に誘導し,都市にたまった大気汚染物質を吹き飛ばすための政策として実施されてきた(一ノ瀬,1933).この風は同時に熱も拡散させるほか,冷気として,都市内に移流してくるため,ヒートアイランドを緩和する効果としても期待されている(Weber and Kuttler,2004).しかし,国内での山風の事例は数少なく,現在十分に研究されていない.今後,山風を利用した都市の熱環境の緩和策を検討するためにも,山風の気象学的・気候学的特性を把握する必要がある.そこで,本研究では長野県長野市の浅川地域における山風の研究を従来の定点観測に加え,超音波風向風速計と気圧計を用いた風,気温及び気圧の自動車による移動観測と領域気象モデルWRFによる数値シミュレーションにより、山風の吹送過程とその冷却範囲を明らかにする研究を行っている.本要旨ではWRFによる予備的数値シミュレーションの概要を報告し,大会当日は観測成果も発表する
  • 西野 寿章, 藤田 佳久
    セッションID: S1201
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    本研究の目的は,限界化が指摘される日本の山村において,非限界性を示す山村を見出し,その存立基盤を明らかにすることにある。そこで山村振興法の指定を受けている振興山村地域の内,自治体全域が振興山村地域となっている507の全部山村を対象として,1985年から2005年までの人口増減率,2005年における若年齢者率によって類型を見出し,類型毎の特性と地域的分布の特性を分析した。全部山村の類型は、人口増減率と若年齢者割合の間には弱い相関(0.52)がみられ、概して人口が増加しているか、減少率の低い全部山村は若年齢者割合が高い傾向のあることがわかり,1985年から2005年までの20年間における人口増減率と2005年における若年齢者割合(20歳から39歳までの人口が地域人口に占める割合)をクロスさせることによって析出した。その結果,7つの類型が析出された。類型Ⅰは人口増減率と若年齢者率が共に中央値を上回っている全部山村で,人口増減率、若年齢者率に幅があるため、Ⅰ-1、Ⅰ-2、Ⅰ-3の3区分とした。類型Ⅲは、人口増減率と若年齢者率が共に中央値を下回って人口減少が進み、高齢化が進んでいる全部山村であり、深刻度を知るためにⅢ-1、Ⅲ-2の2区分とした。そして類型Ⅱは、人口減少は中央値を上回って進んでいるものの、若年齢者率が中央値を上回り、類型Ⅳは、人口増減率は中央値を上回っているものの、若年齢者割合が中央値を下回って高齢化が進んでいる全部山村である。類型Ⅱ、類型Ⅳは、山村の中でも、やや異なる動きを持つ山村であるということができる。本分析よって類型Ⅰ-1に該当する最も非限界性を持つと考えられる山村は,若年齢者比率順にみると北海道占冠村,長野県安曇村,北海道赤井川村,愛知県藤岡町,福島県西郷村,長野県川上村,北海道浦河町,福島県檜枝岐村,北海道別海町,同新冠村,神奈川県清川村,山梨県鳴沢村,岐阜県宮村,群馬県高山村,石川県河内村,長野県高山村,同平谷村などの21の山村であった。これらの山村を産業別就業人口や個人所得などを加味して,地誌的分析を行うと,都市への通勤圏域に位置している地域であることや観光・リゾート地域であること,特定の農産物の生産,酪農に特化した農業地域であることなどで共通している。
  • 人間活動の影響に着目して
    森 和紀
    セッションID: 313
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1.研究目的:ルーマニア中央部,南カルパチア山脈の北麓に位置する対照的な二地域,農村集落ジーナ(Jina)と人間活動の及ばないチンドレル(Chindrel)山地において,河川・湖と地下水の水質に与える人為的影響を明らかにすることを目的に現地調査を実施した。調査時期は2003年,2004年,及び2011年の何れも8月~9月である。
    2.調査対象地域の概要:ジーナはドナウ川支流チビン(Cibin)川の源流域に立地する人口約4,200人の農村集落である。ルーマニアの欧州連合への加盟(2007年1月)以降,集落内では土地利用の改変が認められ,水利用の面でも野外に公共給水栓が設置されるなど,近年の変貌が著しい地域でもある。これに対し,チンドレル山地は,森林限界を超える標高約2200mに達する山岳地域であり,ヒツジの移牧に伴う草原の利用の他には人間活動が認められない。
    3.水質にみられる人為的影響:チビン川上流部における河川水の溶存成分濃度は,最上流地点において最高値を示し,流下に伴い,支流の合流による希釈を受けて濃度がしだいに低下する。生活雑廃水に由来するNa+とCl-の占める比率が高い点も河川水質の特徴である。これらの事実は,尾根部に立地する集落における人間活動が河川水質を決定づける典型的な事例であり,生活の基盤を牧羊に置く人間活動の影響が水文環境に現れた例と言える。湧水には比較的高いNO3-濃度が認められ,牧畜によるヒツジ・牛の屎尿の影響が示唆される。
    4.欧州連合加盟後の河川環境の変化:2004年の調査では,初夏に刈り取られる羊毛を製品化する前処理として,地域住民が渓流や河道内の岩場を利用して洗浄する行為が行われており,このことに起因する河川水の局地的な著しい水質汚染が生じていた。しかし,その後の欧州連合への加盟に伴い,水質の監視体制と水質基準の遵守が強化された結果,河川水の水質は改善されつつある。
    5.準平原面の水質特性:チンドレル山地は,ヒツジの移牧に伴う草原の利用を除けば人間活動の認められない地域であり,湧水は標高1880~2110mの高位に分布する。湧水の電気伝導度は21~42μS/cmと比較的低く,人間活動の影響が顕著なジーナ地域との差が明瞭に読み取れる。圏谷底に位置する氷河起源の閉塞湖では,湖岸に堆積するターミナルモレーンの空隙から湖水の漏出が認められ,下流域への小河川が発生している。湖水の電気伝導度は20μS/cmと低く,涵養源は降水に大きく由来すると考えられる。流域を異にする河川水の電気伝導度は37~55μS/cmの範囲にあり,チビン川とは対照的に自然状態が保持されていることが認められた。以上のように,準平原面において水質が良好に保持されていることは,牧童が飲料水を確保する上で重要な要件であり,夏期にヒツジを最上位の地形面で飼育する移牧の一因になっていると指摘される。
  • ID-Linkの事例
    中村 努
    セッションID: 404
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ.はじめに
     高齢化による医療需要の高まりと医師不足を背景として,ICTを活用することによって,市町村,二次医療圏などといった地理的境界,医療,介護といった職種の境界を超えて診療情報を共有する地域医療連携が普及し始めている。しかし実際には,ICTを活用した地域医療連携システムは,それぞれの地域の特性を踏まえて不均一に普及している。本発表は,地域医療連携システムの普及動向を把握するとともに,ID-Linkという地域医療連携システムの先進事例をもとに,地理的側面からその普及プロセスを検討する。

    Ⅱ.地域医療連携システムの普及に向けた施策
     現在,国によって標準化された用語・コードのマスター構築やデータ交換規格の標準化などの基盤整備が一部進められているものの,いまだ完全な標準化には至っていない。一方,データリンク型は,①新たにデータセンターを構築するコストがかからない,②地域に分散する患者の診療データを統合して閲覧できる,③他社の電子カルテを導入する病院と連携できる,④維持費用が安い,という4点から急速に普及している。ただ,マルチベンダー間の情報共有を可能にするシステムは,NECのID-Link,富士通のHuman Bridge,NTT東日本の光タイムラインなど,複数のベンダーからパッケージとして提供されており,相互に競合している。

     Ⅲ.ID-Linkの普及プロセス
     本発表では地域医療連携システムの事例として,データリンク型の一つ,ID-Linkの普及プロセスを検討する。ID-Linkは,情報サービス業のエスイーシー(北海道函館市)が日鋼記念病院(北海道室蘭市)にプロトタイプを開発したことに始まる。開発担当者は,市立函館病院(北海道函館市)の副院長とも親交があり,回復期の患者をスムーズに転院させることによる経営効率の改善を目的として,2006年,ID-Linkのプロトタイプを開発した。2007年にID-Linkのテスト運用が開始された後,2008年4月に「道南MedIka」として運用が正式に開始された。2012年5月現在の情報公開施設は,2008年8月の2施設から7施設へ,閲覧可能施設は,同期間に29施設から61施設へ増加するとともに,医療機関だけではなく,調剤薬局や居宅介護支援事業所,訪問リハビリステーションへと幅広い関連分野からの参加がみられるようになった。
     ID-Linkによる情報公開施設数は,富士通のHuman Bridgeサーバーと連携して長崎県全域で展開する「あじさいネット」,庄内地方の「ちょうかいネット」など急増している(図)。普及が進んだ地域の特性についても概観する。
  • 一 広志
    セッションID: 607
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     新居浜および四国中央における降水量の時系列変化に着目すると、3時から4時頃にかけてと14時から15時頃にかけての2つのピークが認められる。これより、降水イベントの時間帯を0時から8時までと13時から18時までとの二者に分け、前者を第一のピーク時、後者を第二のピーク時と称してそれぞれの降水の成因についての考察を進める。(ⅰ)地上風と降水量との関係 4要素が観測されている新居浜と四国中央について、第一のピーク時と第二のピーク時の両者における地上風と降水量との関連を調べた。第一のピーク時においては2観測点ともに降水量は西風成分・南風成分の両者の間に正の相関関係が認められ、南西寄りの風が強くなるに従い降水量が増す傾向がある。第二のピーク時では2観測点ともに西風成分が減少するにつれて降水量が増す傾向があるが、相関係数は低く5%水準のt検定の結果も有意でない。新居浜では南風成分との間に正の相関関係があるが、先述の検定の結果は有意でない。台風の位置より推定される第二のピーク時における気圧場の風は北東寄りとなるが、北寄りの風が卓越している時よりも南~西寄りの風の発現時に降水量が多くなる傾向がある。(ⅱ)四国脊梁山地の南側と北側の温度傾度と降水 四国脊梁山地の北側に位置する西条、新居浜、四国中央と南側に位置する本川、本山の各観測点における気温の推移と降水イベントとの対応について考察した。気温は、0.6℃/100mの高度補正を行なった。第一のピーク時は脊梁山地の南北での温度傾度が拡大する過程であり、第二のピーク時においては縮小している。これより、第一のピーク時と第二のピーク時の降水の成因は異なっていると考えられる。降水量は第一のピーク時の方が多く、第二のピーク時の降水量は第一のピーク時のおよそ40~75%である。(ⅲ)四国とその周辺における地上相当温位 四国とその周辺領域の地上相当温位分布からの降水の成因についての説明を試みた。第一のピーク時にあたる4時には四国西部から大分県方面にかけて南北方向の相当温位傾度が大きくなっており、高知付近では暖湿気塊の北進が認められる。この傾度の大きい領域は梅雨前線本体であり、19日3時(JST)の地上天気図に停滞前線として解析されている。第二のピーク時の15時には室戸岬から潮岬にかけて348K以上の高い値を示しているが、四国地方における傾度は第一のピーク時に比べて緩やかである。レーダー合成図より、第二のピーク時の降水は台風本体の雨雲によるものであることがわかる。この時には梅雨前線は山陰から北陸にかけての地域に北上している。
  • - 尻別川流域を事例に -
    小林 修悟, 小寺 浩二
    セッションID: P018
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ はじめに河川流域の流域管理や環境保全を行うためには、流域単位での水域環境の把握が必要となる。近年はGISの普及により、河川流域の空間把握が格段に簡便となり、気候や地形等の河川の多様な水質形成因子の表現が可能となった。2000年以降、「水環境の地理学」の研究グループでは「河川流域の水環境データベース」作成が試みられている。当研究室では天塩川(清水ほか2006)、北上川(平山ほか2009)などの一級河川や大規模支流(信濃川支流魚野川、森本ほか2008)にて流域特性把握の研究が成された。本研究は水環境データベースの一環として尻別水系流域の流域特性把握を行うものである。当地域における羊蹄山湧水や公共水質観測による報告はあるが、支流を含めた水系全体の水質分析が成された例はない。主要溶存成分による水質分析とGISを利用した流域特性解析を紹介する。Ⅱ 流域概要 尻別川は支笏湖西方に位置するフレ岳(1,046m)に起源し、西方に流れ羊蹄山(1,893m)北麓を迂回し、蘭越町磯谷で河口へと達する、流域面積1,640km2、幹線流路長126km2の河川である。源流から喜紋別にかけての上流部では1/60以上と急勾配となっており流量は少ない。中流部から下流部にかけ支流合流と羊蹄山を中心とした湧水供給を受け、蘭越からの下流部では1/500‐1/5000程度と緩勾配となり、流量も増加し大河川となり河口へと注ぐ。 当地域は北海道有数の酪農、農業地帯となっており、主な農産品には馬鈴薯やアスパラガス等となっており、下流部は水田地帯が形成されている。観光面では羊蹄山湧水やラフティングといった、水資源による地域振興が成されており、尻別川が当地域に与える影響は大きくなっている。Ⅲ 研究方法国土数値情報等の公共作成データ等をGISソフト用いた流域規模での空間把握による自然地誌作成を行った。また、尻別川水系の水質特性把握を行うために、2012年5、7、9月下旬にて、本流、2次流以上の支流下流、湧水及びそれに準ずる河川最上流部の50点程サンプリングを行い、現地観測(気温、水温、流量、EC、pH、RpH)を行った。サンプルを濾過後、研究室にてTOC、イオンクロマトグラフィーによる主要溶存成分分析を行い、GISソフトによる図化により流域特性の鮮明な把握を行った。Ⅳ 結果と考察流域にはイワヲヌプリ(1,116m)に起源するpH4.0前後の硫黄川・ニセコアンベツ川等の酸性河川や、pH8.0前後の真狩川などを含み、湧水供給の高い河川など多様な河川が存在する。流域の大半が森林となっており5月下旬の河口部のECは95μm/cmと人為的影響が少ないことを示している。しかし、酪農地帯や耕作地流辺の小規模河川においてはpH、ECが高く人為的な影響を受けている。Ⅴ おわりに 本研究により尻別川水系には多様な特性を持つ河川が存在することが判明した。今後も調査を継続し年変動を把握し、水系特性及び各河川の水質形成の解明を行いたい。
  • 関戸 明子
    セッションID: S1205
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     群馬県の北西部に位置する六合村は,2010年3月28日,中之条町と合併した。六合地区は過疎法の指定を受けている典型的な山村である。一つの自治体全域が山村振興法の指定を受けていた507の山村を対象に分析した西野(2012)によれば,1985-2005年の人口増減率の中央値は-21.8%,2005年の20-39歳人口の中央値は16.0%であった。それに対して,六合地区の人口増減率は-17.3%と中央値を上回るものの,20-39歳人口は14.5%とやや低い。2010年の年齢別人口構成をみると,20歳代の割合が小さく,今後,地域コミュニティをどのように維持していくかが大きな問題となっていくと考えられる。本研究では,六合地区を事例に,集落単位の人口減少率・高齢化率を検討した上で,過疎化が著しい集落とそれに抵抗している集落とを比較検討することで,過疎に抵抗している集落の地域コミュニティの特性を考察する。聞き取り調査・アンケート調査をふまえて,ローカルな資源を活かした持続可能な地域づくりの可能性を探る。
  • 岡谷 隆基, 小荒井 衛, 中埜 貴元
    セッションID: 111
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    国土地理院では,MMSの用途の一つとして,計測されたデータを元に津波浸水深の計測を行った.本発表では2011年5月に三陸地域において取得した画像の解析結果について報告する.解析では,過去に仙台周辺で取得した画像とほぼ同水準のデータが得られることを確認している.
  • 小荒井 衛, 岡谷 隆基, 神谷 泉
    セッションID: P006
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    2012年5月6日に、茨城県つくば市などで竜巻が発生し人的に物的に甚大な被害がもたらされた。国土地理院では、被災状況の把握のため、5月7日に茨城県つくば地区などにおける被災地域の空中写真撮影を実施し、空中写真を公開した。本ポスター発表では、つくば市での竜巻被害について、空中写真から判読された被害状況、他の地理空間情報と重ね合わせて明らかになった被害の特徴、インターネット上のビデオ画像を収集して把握した各時刻の竜巻の状況等について報告する。
  • 梶原 宏之
    セッションID: S1606
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年,全国の自治体でジオパークへの期待が高まっている.2004年ユネスコの支援で始まった新しい制度は欧州を中心に世界へ広がり,日本では2008年初めての日本ジオパーク加盟地域が生まれ,さらに翌年世界ジオパークにまで進展したことで大きな期待が生まれた.最初の登録から4年しか経っていないものの2012年5月現在すでに日本ジオパークへ認定された地域は20,推進協議会を設立し準会員となった地域も16に増え,今後も増加しそうである.報告者自身もジオパーク推進協議会の一員であり,地理学徒として勿論こうした傾向を喜ばしいと感じている者だが,しかしジオパークよりすでに10年以上も前に日本で流行したエコミュージアムを経験した者から見ると,いささか疑念や不安も感じられる.それは近年における各自治体のジオパークへの盛り上がりがちょうど10年前のエコミュージアムのそれとそっくりだからである.残念ながら現在日本のエコミュージアムはかつてほどの盛隆はみられなくなってしまった.理由は様々あると思われるが,ここでジオパークはエコミュージアムの問題点を整理しておかないと,10年後また同じ轍を踏む可能性も出るだろう.そこで本発表ではエコミュージアムがかつて陥ってしまった問題点(特に学問的担保,リファレンス性,マネタイズ,拡張性,倫理哲学について)を整理し,そこからジオパークが注意すべき点や新しい期待について言及したい.
  • 福島県檜枝岐村を中心に
    合田 昭二
    セッションID: S1206
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     観光にウェートがある非限界型山村を以下のように抽出した。全市町村(2010年)のうち林野率(2005年)70%以上、人口千人あたり飲食店・宿泊業事業所数(2006年)20以上で、1970~20005年の人口変動が増加または80%前後にとどまる町村は、12町村を数える(大合併市町村と離島は除外)。その中で財政力指数(2008年)が0.40以上を示すのは、檜枝岐村、白川村、湯沢町、白馬村、河津町である。福島県檜枝岐村を主に、岐阜県白川村と長野県白馬村を付随的に報告する。 檜枝岐村は人口637人(2010年)で、全戸が檜枝岐川沿いのほぼ1.5kmの細長いエリアに集住する。集落内に旅館5軒・民宿32戸が集中立地する。最大の観光資源は尾瀬国立公園である。同村観光産業の最大の特色は、村直営施設のウェートの高さで、国立公園内に山小屋2軒(ほか民営山小屋が12軒)・休憩施設である山の駅2箇所を持ち、集落内では温泉浴場3軒とスキー場を経営する。 村営事業は生産分野にも及び、特産品生産販売施設(きのこ・自然水・魚・そば・木工品)が経営されている。製品は観光みやげとなるほか、村内の宿泊施設が購入して観光客向け料理となる。労働力は、特産品生産施設では村民の年間雇用者、宿泊施設では季節雇用者が主である。手工業の伝統のある木工品(木杓子など)は、村内の副業的生産者が村営の販売所と契約して生産を行う。このように村内の観光事業は、村営事業を軸とした地域経済の循環を形づくる。ただし、村営事業は全体として赤字で、村の一般会計からの繰り入れが続く。村財政におけるダム・発電所からの固定資産税がそれを支えてきた。この面では檜枝岐村の観光事業は非自立性を示すが、村内における所得循環を形成する側面は、限界山村の姿とは対照的である。 合掌家屋集落で知られる白川村は、観光客による混雑、短時間通過型観光、地域経済循環の欠如―観光関連生産の乏しさ―に加え、違法駐車場による景観保全の危機がある。白馬村は、スキー観光依存からの転換、高級民宿の育成、農業が支える伝統的建造物群保存地区、地元農産物加工と観光の結合など、観光支持基盤の多面化が進む。民間の出向者も多い公社組織が、観光の企画や土産物の生産販売の実務を主導する。
  • 森野 友介
    セッションID: 305
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    「スクリーンスケイプ」はスクリーンに表示された映像から、このような現代社会を読み解いていこうという試みである。スクリーンスケイプとは狭義にはスクリーンに表示された映像そのものを意味するが、広義にはそれを通してつながったヒト、モノ、情報のフローやこれらを抑制、あるいは促進する文脈や技術との関係も含まれる。本研究では狭義のスクリーンスケイプの1つであるスクリーンの映像表現について調査する。本研究では現在のヴァーチャル空間の基礎につながっていると考えられる2Dのビデオゲームの空間を対象に調査を行う。このようなビデオゲームの空間は3DCG技術を利用した擬似3D表現が難しく、高さ、奥行き、幅の3軸のうち2軸を選択した平面で表現されている。そのため、その選択によって視点を分類することが可能であり、2Dのビデオゲームの空間をプレイヤーがみる視点の位置によって4種類に分類した。ファミリーコンピュータ(以下FCとも記す)およびスーパーファミコン(以下SFCとも記す)の2機種で発売されたタイトルを視点とゲームの内容を示すジャンルによって分類し、分析を行うことで、ビデオゲームの空間の特性を明らかにする。 FCおよびSFCで発売されたゲームタイトルを分類、分析した結果、以下のような知見が得られた。ビデオゲームのジャンルにはゲーム機の性能や普及台数による棲み分けや、ヒットタイトルによる特定のジャンルの流行などが見受けられた。視点とハードウェアの性能に注目すると、FCに比べ、性能の向上したSFCでは擬似3D表現が可能な視点の増加していた。また、ジャンルによって利用されている視点に明らかに偏りが存在することから、ゲームの内容に合わせた表現方法が選択されていることが明らかとなった。ビデオゲームの空間は技術的問題から大きく制限されているおり、効果的に視点を選択することによってゲームの空間を表視する必要がある。さらに、表示可能な情報量の少なさをインターフェースや音によって補っている。 スクリーンに表示される映像には必ず作り手が存在する。そのため、技術が進歩した今日でも表現方法の選択は行われており、依然としてヴァーチャル空間はインターフェースや音による補助なしには成り立たない。本研究ではスクリーンスケイプの一部のみを扱っており、情報化の進んだ現代を読み解くためにもより広義のスクリーンスケイプについての研究を進めていく必要がある。
  • 漆原 和子, 白坂 蕃, バルテアヌ ダン
    セッションID: 311
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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     ルーマニアにおけるヒツジの移牧が社会体制の変革とともにどのように変化したかについて研究結果を述べる。とりわけ2007年EU加盟後の移牧が変質してきた。夏の宿営地(2100mの準平原面)へのヒツジの移牧頭数は激減し、冬の宿営地(バナート平原)へは移動手段を貨車、トラックに頼るようになった。また、バナート平原に定住化したヒツジの移牧の頭数が増え、大型化している。1000mの準平原面の上の基地では土地荒廃は改善されつつある。またドナウデルタではヒツジは定住化し、移牧は全くおこなわれなくなった。
  • 漆原 和子, 羽田 麻美, 高瀬 伸悟, 石黒 敬介, 稲守 良介
    セッションID: 312
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ 研究目的 ルーマニアでは,1989年の革命による社会主義経済の崩壊と2007年のEU加盟という社会構造の変化を経て,移牧の様式が変化してきた.本研究では,移牧に伴う土地荒廃の変化に着目し,2003年からおこなった土壌侵食量の計測結果を報告する.Ⅱ 地域概要および計測方法調査対象は南カルパチア山脈にある3段の準平原面のうち,ゴルノビタ準平原面にあたるジーナ村(標高約1000m)と最上位の山頂部(ボラスク面,標高約2100m)の2地点でおこなった.対象地域を構成する基盤岩はプレカンブリア時代の結晶片岩であり,風化層は薄く土壌の発達は悪い.1)ジーナ村における土壌侵食量の計測計測は,ガリー侵食が生じている場所を定点観測地としておこなった.2003~2004,2007~2011年にかけて,1年毎に地形断面を計測した.さらに,調査地周辺(標高988mの草地)において転倒ます型雨量計を設置し,降水量の観測を2003年9月19日~2005年7月15日におこなった.2)山頂部における礫の移動 チンドレル山地において,羊の移動ルートになっている草地上に3か所の方形区を設置し,2007年9月~2011年8月までの礫の動きを計測した。Ⅲ 土壌侵食量および礫の移動の計測結果 1)ジーナ村のガリー侵食地における9年間の縦断面形計測の結果を図1に示した.谷頭部は2003年から2004年に1m後退し,2007年にはさらに1m後退した.2008年は,表層の土壌が若干動いたに過ぎなかった.2009年には基盤岩が谷壁に露出し始め,谷頭部の後退は停止した.谷底の各遷急点においては,谷頭部と同様に,基盤岩が露出すると後退が停止し,その位置がその後も変化しないという規則性がみられた.例えば,図中②における遷急点では2003年から2009年にかけて約50cmずつ後退し,2009年に基盤が露出すると,その後は後退が停止した.また,降水量を観測した結果,年降水量は約640mmであり,日降水量が20mmを超える日が年に8回みられた.2)山頂部における羊の移動ルートにおいて,EU加盟後の4年間の礫の移動を調べた結果,山頂部では礫の移動は少なく,草本の被覆も安定していることがわかった. Ⅳ 結論プレカンブリア時代の結晶片岩から成る草地においては,基盤を構成する岩石は風化の進行が極めて遅いため,一度基盤が露出すると長時間にわたり植生が回復しない.ゴルノビタ準平原面におけるガリー侵食の計測から,羊の踏圧によって土壌侵食は進行し,基盤岩が露出すると谷頭部の侵食が止まることがわかった.降水量の観測結果より,調査地域の乾燥した気候下において発生する降水頻度と降雨強度が,土壌侵食に影響を及ぼすことが考えられる.一方2007年のEU加盟後,対象地域では羊の頭数が減少(すなわち,踏圧のストレスが減少)傾向にあり,2010年の計測において,土砂の堆積地では部分的ではあるが草の定着がみられ,植生が回復しつつある状況が確認された. さらに山頂部においては,EU加盟後,移動する羊の頭数が減少したため,移牧ルートにおける礫の移動はほとんど見られない.草地に与える羊のストレスは少ないことがわかった.
  • 布和 宝音, 崔 斐斐, 孫 バイ, 近藤 昭彦
    セッションID: P027
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    中国における耕地面積の統計データは三種類ある。その中で唯一国家統計局が公表している統計年鑑だけが毎年出版されており、広域的な環境変化を時系列で解析することができる。そこで、統計年鑑データをデジタル化し、GISによるデータベース化と時系列解析、地理情報解析を行った結果に基づき、中国の政策上の大きな変換があった2000年以降の内モンゴル自治区における生業、環境変化と国の政策、施策との関連性について明らかになった結果を報告する。
  • 中川 清隆, 渡来 靖, 重田 祥範
    セッションID: 613
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     2009年末に拡充整備された立正大学熊谷キャンパス露場における2010年元旦~2012年6月末日の観測結果を解析して,当地の日射と温度の日変化位相差temperature phase lagについて検討した.10分間隔の日射量時系列は,晴天でスムーズに繋がっている場合より,曇天の影響で10分ごとに乱高下する場合の方が圧倒的に多く,24時間連続した快晴日の出現確率は4ヶ月間で1日程度に過ぎない.合成された日変化曲線には,大きな経年変化は認められず,平均的には,晴天日の典型例と同程度,2.5~3時間の温度位相差temperature phase lagが存在することが示唆された.
  • 藤森 衣子
    セッションID: 204
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本研究では、1969年入居以降の神戸市灘区鶴甲団地における集合住宅居住者の移動について検証する。具体的には時系列でみた移動居住者数の推移から社会・経済との関連、また建造環境による比較を行う。あわせて入居第一世代を中心とした居住者の経歴を明らかにすることを目的とする。居住者移動の資料としての住宅地図(ゼンリン)名字データは、問題点を含んでいるため、修正と加工を行った。集合住宅計1120戸を調査対象としたデータと合わせて、長期間居住者への聞き取りを行い、現在に至るライフコースの調査を行った。 鶴甲団地の現在までの移動居住者数の推移をみると、1次分譲(1969年入居)と2次分譲(1971年入居)は、入居年に2年間の隔たりがあるが、いずれも入居10年前後に大きな移動の画期が確認できる(A)。また、阪神・淡路大震災が発生した1995年前後から2000年にかけて(B)と、2008年以降(C)にも増加傾向を読み取ることができる。Aは、転売可能な時期に入り、物件価格も購入時より大きく上昇した時期である。これに連動して近隣移動と、郊外に向かう移動が顕著になり、大きな移動となったことが考えられる。またこの移動の多くは、第一世代によるものであることが確認できる。Bの時期には、阪神・淡路大震災に関連した移動(特に高齢者)が考えられ、Cの時期には、自立的生活維持が困難となった高齢者の移動や、物件販売価格の下落による新旧入れ替わりによる移動の存在が推測できる。2次分譲には、メゾネット形式が210戸/580戸含まれていて、一般的な集合住宅に比べて、第一世代や長期間入居者の定住率が低く、特に阪神・淡路大震災以後の移動率が顕著となっている。 1969年から鶴甲に入居した人々の居住経歴とその後を検証する聞き取り調査の結果から以下のことが考えられる。第二次世界大戦やその後の住宅難を経験した、居住移動回数が極端に多い世代が、家族を形成して高度経済成長期にニュータウン居住を選択した。多くは核家族の形態で入居し、ほぼ同世代の人々と連携し地域社会を形成していった。その後は、経済変動,住み替え指向,阪神・淡路大震災による居住者移動がみられる。しかし移動をせず留まった人々の背景には、地域社会の人々との繋がりの存在があったことが考えられる。
  • 中埜 貴元, 小荒井 衛, 熊木 洋太
    セッションID: P012
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    平成22年度に都市部の自然災害と関連の深い人工改変地に関するデータが更新された国土地理院の土地条件データを用いて,首都圏を中心に更新前後(昭和40-50年代と平成22年)の人工改変地の分布や変化箇所の特徴をGISで解析した.その結果,入間・武蔵野台地では昭和40-50年代までに開発がほぼ完了しているのに対し,その他の地域は近年まである程度継続していることがわかった.
  • 長野県安曇野市を事例に
    杉本 興運, 岡野 裕弥, 菊地 俊夫
    セッションID: 701
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     農村地域は,比較的広い空間スケールで観光地域として成り立っている場合があり,点在する観光対象間の移動に,徒歩以外の端末交通手段を利用することがある.レンタサイクルは,環境負荷の抑制や利用者の自由度の面で注目されており,多くの観光地での導入事例がみられる.しかし,レンタサイクルを利用した観光行動の実態については,研究調査が不足している.本研究は,観光型レンタサイクルを利用する観光客の行動実態を明らかにし,観光施策のための基礎的知見を提供する. 長野県安曇野市穂高地区を調査対象地とし,2011年7月11日から14日までを調査期間とした.穂高駅前の代表的なレンタサイクル店で,観光客にGPSを配布し,GPSを回収後,同時に質問紙調査を行った.有効なGPSは39グループ,質問紙は95人分であった. GPSのログデータをもとに,まず基本的な行動量を求めた.所要時間は主に50 分間から100 分間のグループが多く,移動距離は5km以上10km以下のグループが多い.そして,レンタサイクルから降りるなどして歩行していた時間は50分から100 分以内のグループが多いが,より長い時間歩行するグループも多数ある.自転車による移動時間は主に0 から50 分間以内のグループが多い.歩行時間は自転車利用時間に比べて多く配分されていた. 次に,GPSのログデータをGISで分析し,空間利用や行動パターンを可視化した.まず,観光客の行動の種類の違いを考慮した空間利用把握のために,異なる速度をもつログの点分布をデュアルカーネル密度推定によって可視化した.歩行による移動が主な空間は,安曇野市の3つの主要観光施設付近であった.これらは観光客の主要な目的地であり,回遊行動上での重要な結節点あるいは折り返し地点である.自転車での移動が主な空間は,穂高駅東側でとりわけ高かった. より詳細な行動パターン把握のため,GPSログデータをArcGISで電子地図上に2次元や3次元で表示し,目視で移動軌跡の類型化を行った.その結果,3つの行動パターンを抽出した.観光型レンタサイクルを利用した観光客の回遊行動は特定の型にはまっているものが多かった.この要因としては,観光客の距離や方位など空間的知識の不足と,一部の観光施設への認知の偏りの2つの問題が関係している.前者によって推奨コースの紹介というサービスの常態化につながり,後者によって一部の観光施設への到着が主目的化し,結果として観光客の回遊行動を規格化している.
  • 山間地域の持続システム
    堤 研二
    セッションID: S1203
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本の山間地域,ことに林野率が90%を超える地域の多くが,人口流出・高齢化・林業不振に悩み続けてきたことは周知のことであろう.こうした山間地域については,なかでも林業問題への視座を外すことができない.木材に関して見ると,近年,外材依存から国産材利用へシフトする小さな動きが見られ始めた.こうした中で,①林業の合理化・近代化・活性化,②森林管理,そして,③地域生活の持続性の三つの点から山間地域の持続性を考えることがタイムリーな事項となってきている.本発表では,ドイツなどの事例をふまえつつ,鳥取県日野郡日南町を対象として,前記の林業の合理化・森林管理・地域生活維持の三点から,山間地域の持続システムを考える題材を提供する.具体的には森林管理システム,森林GIS,ソーシャル・キャピタルと土地活用等に注目する.
  • 貞広 幸雄
    セッションID: P008
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本論文では,GISとインターネット情報を用いて,江戸末期~明治初期の歴史空間データを簡便に作成する方法を提案する.ここでは初等中等教育や地域情報のインターネット上での発信などでの利用を念頭に置き,情報の厳密さよりも作成の簡便さを重視した方法を採用する.対象地域は現在の千葉県全域であり,主として江戸末期~明治初期の以下4種の空間データを整備した.1) 地形,2) 人口分布,3) 交通網,4) 行政区.
  • 春山 成子
    セッションID: P026
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    アレクサンドリア学からは遺跡分布にデルタ「緑地」での流通が指摘され、マリユート湖での海洋~湖~ナイル小支流~ナイル本流を経由して、アレクサンドリアがヒト・モノの集散・拡散地点となったことが説明されている。アレクサンドリア西方では墓地・信仰の中心地が形成され、ぶどうやオリーブ栽培と地場産業が示されてきた。しかしながら、既往研究では低湿地へのイメージが欠如していた。長谷川らの最近3カ年の調査からマンザラ湖からマリユート湖までの湖は完新世の温暖期を境に大きな環境変化を受けたと考えられる人間の足跡が認められ、イドゥク湖とマハムディーヤ運河に挟まれた地区にヘレニズム時代の遺跡が多数分布し、標高1mに相当していることが分かった。アレキサンドリア周辺に見られる砂丘、砂州、ラグーンなどには過去の環境変化を描きだすための様々な指標が隠されおり、今後の調査が待たれる。
  • 黒木 貴一, 後藤 健介, 磯 望, 黒田 圭介, 宗 建郎
    セッションID: P013
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    自然災害による地形条件分析として高精度DEMによる標高変化を見ることが有効かと思われるが,甚大な災害でなければ通常その前後の同一地域のDEMはない。しかし大小多くの自然災害が毎年生じ,DEMに代わる地形条件変化の推定手法が必要である。人工衛星の反射率データは,可視領域以外に近・熱赤外域など幅広い波長帯を捉えることができるため,空中写真を超える多様な土地条件分析が可能である。たとえばこれらのデータから導かれるNDXIすなわちNDVI(正規化植生指数),NDSI(正規化土壌指数),NDWI(正規化水指数)はそれぞれ植生,土壌,水の存在を判断できるため,植生区分や自然災害に伴う地形条件分析に利用されている。そこで大分川を事例にNDXIを地形条件変化の指標となせるかを課題とし,NDXI変化の特徴と堤外地形との関係を分析した。
  • 淺野 敏久
    セッションID: S1607
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    ラムサール条約は湿地を保全することを目的とした条約で,日本は1980年に加盟した。湿地の保全,ワイズユース,普及啓発(CEPA)を3つの柱とする。近年,登録湿地の数と対象を広げる方向に動いており,水田なども対象となっている。日本では,1980年に釧路湿原が登録されたのがはじめで,当初サイト数はあまり増えずにいた。2005年に大幅増となり,2012年6月末現在,37箇所、総面積131,027haが指定されていた。2012年7月のCOP11でさらに9箇所が新規に登録された。ラムサール条約にどの湿地を登録するかは,それぞれの国のルールによっている。日本の場合,国際的に重要な湿地であること,対象湿地が国内法で保護対象になっていること,指定にあたって地元の賛意が得られていること,が求められる。 報告者は2010年より科研費の共同研究で日韓のラムサール条約湿地を調べており,複数湿地での現地調査や国内37サイトでの利用と保全に関するアンケート調査を行っている。報告ではその一部を紹介する。 第1に,日本のラムサール湿地は基本的に保護対象地として認識されているケースが多く,登録後に,ラムサール条約を前面に出して利用を強調する取り組みが進んだケースは少ない。蕪栗沼のように農業振興とラムサール登録を結びつける戦略が意識されているところはこれまで多くなかったが,今回の円山川や渡瀬遊水地は地域づくり的方向が意識されており,今後の傾向になる可能性はある。 第2に,利用という括りで,環境教育利用が想定される傾向が強い。これはCEPAにあたるもので,ワイズユースと分けられるのであるが,日本ではラムサール湿地の利用というと教育的利用が真っ先に意識されるようである。 第3に共通する利用形態として「観光」が考えられる。アンケート調査の結果からは,バードウォッチングと写真撮影が最も多い行動になっており,日本の観光地の中でかなり特殊な性格をもっている。 その他,観光化に対する日韓の対応差や,国内での世界遺産とラムサール条約への地元の対応差などついて当日報告したい。 ラムサール条約湿地や世界遺産,エコパーク等,何が同じで何が違うのか。本報告では,ラムサール条約湿地とジオパークの相違点や,ラムサール条約のワイズユースの国内事例から示唆される,ジオパークの課題や留意点について話題提供したい。
  • 河北省定興県の事例
    荒木 一視
    セッションID: P038
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    中国の急速な経済発展は,とくに都市部においては,生活水準の向上,生活の質の向上をもたらしている。こうした中で,先進国と同様に食の品質に対する関心は中国においても高まっている。わが国においては中国産野菜の残留農薬問題などの影響で,中国における食の安全性や品質に関する関心は低いと見なす向きも存在するかも知れないが,食の安全に関する関心が決して低いわけではない。こうした状況の中で本発表では中国における無農薬野菜(無公害野菜)栽培に着目した。上記の研究でも食品に対しての消費者意識の高まりが指摘されているものの,中国における無農薬農産物・食品の生産の実態が十分に解明されていないからである。以上のような考え方に立ち,中国における無農薬栽培の実態を明らかにし,それが抱える問題点を検討することに取り組んだ。んだ。河北省保定市定興県から無農薬栽培に取り組む事例を取り上げた。河北省は北京市や天津市に隣接し,大消費地に比較的近い。本事例はこのような大都市の需要を背景に無農薬野菜の産地として一定の地位を築いてきたところである。無農薬野菜の販売ルートは以下の3つ,すなわち(1)観光農園での販売(2)野菜の個別配送(3)外食産業への提供である。(1)は公司が経営する観光農園に来訪した観光客が購入するものであり,観光客は河北省や北京市から訪れているが,収益は多くない。(2)は野菜ボックスと称する12種類の野菜を詰め合わせた7.5kg入りの箱を申込のあった消費者に個別配送するもので,2010年実績で2万箱を出荷したという。販売価格は80元で,うち30元が利益となるというが,1600人を雇用する企業の事業としては大きくはない。(3)は北京の外資系大手ファーストフードチェーンへレタスを供給する事業であり,このチェーンへ食材を供給する系列の企業に農地を提供している。実際の経営もこの系列企業が行い,公司は用地を提供しているだけといえる。ここで着目したいのは,決して経営上で大きな利益を生んでいるとはいえない無農薬野菜事業に対して,公司が少なからぬ投資をし,省や県からの認証やブランドの形成に注力しているということである。その背景に考えられるのは企業イメージの構築,あるいはイメージの取引である。
  • 清水 善和
    セッションID: 314
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    ルーマニア南カルパチア山脈のチンドレル山地周辺では、3段の準平原面(ボラスク準平原:2000-2200m、ラウセス準平原:1600-1800m、ゴルノヴィタ準平原:1000-1300m、)及びトランシルバニア高原(500m前後)を利用した伝統的な移牧が行われている。本研究では、標高の異なる草地で植物社会学的な調査を行い、家畜の餌としての特性を明らかにするとともに、植生遷移の観点から草地の維持・管理及び荒廃について考察した。また、森林限界付近の植生配列についても調査を行った。ボラスク準平原には、Nardus など背の低いイネ科を中心とした広大な草地が広がる。草本の組成は単純であり、利用可能な期間も短いが、夏には均一で良質な草を提供する。ラウセス準平原では、Festuca、Deschampsia などの背の高いイネ科が増え、移行的な内容となる。ゴルノヴィタ準平原では、イネ科牧草種Holcus、Lolium に加え、マメ科やキク科などを含む種多様性の高い草地をつくる。放牧地ではなく牧草地として利用する場所も多い。トランシルバニア高原は、高温で生産力が高いので主に畑として利用されてきた。ゴルノヴィタ準平原とラウセス準平原は、人間が森林を切り拓いて放牧用の草地に変えたものである。また、森林限界より上のボラスク準平原では、ビャクシン・シャクナゲ矮低木林(南斜面)とムゴマツ低木林(北斜面)が稜線を挟んで接していたと推定され、現在の草地はやはり人為によるものであろう。なお、南斜面では森林限界が1950mであるのに対して、北斜面では1850mである。本来樹木が生育できる場所を草地として維持するためには不断の管理が必要である。放牧の頻度が減ったり、草地が放棄されたりすると、有毒植物Aconitum、Veratrumや家畜の嫌う不嗜好性植物Cirsium、Carduus、Carlina、Urticaが増える(第一段階)、高茎のAgrotisなどの大型草本が群生する(第二段階)、トウヒ、ビャクシン、ムゴマツなど針葉樹の稚樹が侵入してきて成長し、数十年後には樹林に戻る(第三段階)。このような植生遷移の進行を防ぎ、良い状態の草地に維持するためには、①樹木(とくに上記針葉樹類)の稚樹を定期的に取り除く、②害草(家畜に有毒または家畜が嫌う植物)を積極的に取り除く、などの手入れが必要である。
  • 由井 義通, 阪上 弘彬, 杉谷 真理子, 森 玲薫, 久保 倫子
    セッションID: 206
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    わが国における郊外住宅団地の開発は、大都市における住宅難を解消するという喫緊の課題への対処の必要性からおこなわれたものが多い。大都市圏郊外地域では,短期間に大量の住宅が供給されたにもかかわらず、都市計画で検討されるべき、将来における住民の年齢構成への配慮はほとんどなかった。その結果として,開発当初においては働きざかりの30~40歳代の夫婦と彼らのこどもからなる世帯を中心に入居者が偏り,入居者の年齢階層に著しい偏りがみられた。しかし,開発から30~40年を経過した住宅団地では,偏った年齢層の世帯主夫婦は高齢化し,彼らの子どもたちは独立したことにより高齢者夫婦のみと高齢の単独世帯が中心の住宅地へと変容している。そのため,郊外住宅団地では団地内のスーパーマーケットの閉鎖や学校の閉校などがみられるようになり,活気が無くなって衰退地域となっているところもみられる。本研究の目的は,郊外住宅団地における空き家の実態と空き家発生に伴う地域的課題を把握し,空き家の有効利用などによる地域活性化策を立案する基礎的資料を得ることである。本研究では,広島県呉市郊外の昭和地区を研究対象地域とした。調査は,自治会の協力により呉市昭和地区内の住宅団地の空き家の所在地をリスト化し,現地調査により空き家の管理状態を調べるとともに,空き家の隣接住宅への聞き取り調査によって,空き家になった時期や空き家の所有者の属性について調べた。大都市郊外の住宅団地では,中古住宅として不動産市場で取引されることもあり,必ずしも廃屋とはなるとは限らない。しかし,地方都市の郊外住宅団地のなかでも公共交通機関や生活利便施設が十分ではない地域では,中古住宅として売りに出されたとしても購入者がなかなか見つからないため,長期間にわたって空き家となることが多い。空き家では,庭木の管理が不十分なために隣接世帯への迷惑となったり,不法侵入者による放火などの危険性もある。また,なによりも空き家住宅の増加はコミュニティ維持の担い手を失うことになり,地域の衰退に直結するため,自治体では空き家住宅への入居促進に取り組まざるを得なくなっている。
  • -その地形学的検討-
    平川 一臣, 澤柿 教伸
    セッションID: S1102
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    江戸時代後半、幕府は寛政11年(1799)~文政4年(1821)および安政元年(1854)~明治元年(1868)の2時期にわたって、箱館奉行の下における蝦夷地の直接統治と東北諸藩(弘前[津軽]・盛岡[南部]・仙台[伊達]・会津・秋田[久保田]・鶴岡[庄内])および蝦夷地の松前[福山]藩による蝦夷地沿岸部の防備を下命した。幕府によるこのような蝦夷地政策に基づいて、幕府の箱館奉行所の亀田土塁が新設されたのをはじめ、東北諸藩による陣屋・囲郭が蝦夷地沿岸各地に建設された。演者らは,陣屋・囲郭の自然環境に関わる地形的立地条件について記載,分析,考察をおこなっている.それらは,1.各陣屋の地形的立地条件の記載(インベントリー(台帳)作成)および 2.地形的立地条件の3D表示である.ここでは,現段階での試行例をいくつか紹介する
  • 大阪府の事例
    増野 高司
    セッションID: 210
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本報告では,大阪府の公園で行われた花見を事例として,その花見活動を概観するとともに,各地の公園管理の側面から,花見に対する行政による対応の違いを把握することを試みる. 調査地は,①造幣局「桜の通り抜け」(大阪府北区),②万博記念公園(大阪府吹田市),③大阪城公園(大阪市中央区),④元茨木川緑地(大阪府茨木市),⑤安威川河川敷(大阪府茨木市),である.調査は,2012年4月から5月にかけて実施した. 公園管理の側面から,各地の花見に対する対応をみたところ,火気利用および飲食,具体的にはバーベキューの可否,に対する対応に大きな違いがみられた. 都市部の公園における花見は,都市部への人口集中が進むなかで,例えばバーベキューに対する行政による対応の違いが示すように,その社会環境に合わせた実施形態が求められており,その試行錯誤が続けられている.
  • うるま市石川川の事例
    増野 高司, 中須賀 常雄, 岸本 司
    セッションID: P035
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     本報告では,沖縄県のうるま市に位置する石川川のマングローブ林を事例として,その伐採の例を報告するとともに,沖縄県におけるマングローブ林の保全および管理の地域性について考察を試みる. マングローブ林伐採の具体的な取り組みは,洪水への備えから,2010年頃に開始された.2011年末に,マングローブ林の伐採事業が開始された.2012年3月には,マングローブの伐採は終了しており,一部で浚渫作業が行われている状況だった.河口近くに1ヵ所のメヒルギ群落が残されたが,ほぼ全てのマングローブが伐採された. 石川川の事例では,人工護岸とした際に,マングローブ植生を河川の管理計画に組み込み,マングローブの分布を当初より管理していく必要があったと考えられる.沖縄のマングローブは,保全・増殖の時代を経て,その伐採を視野に入れた,人為的管理の時代に移行しつつある.
  • 沼尻 治樹
    セッションID: 608
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     レーダーによる雨量計測の時間的空間的精度が向上したことにより,グリッドデータによる流域水収支解析が可能となった。そこで本研究では,レーダーエコーと地上観測降水量による解析雨量(気象庁)を入力値とした日単位流域流出モデルの構築を試みた。
     研究対象流域は,北海道常呂川流域である。この常呂川上流部に存在する鹿ノ子ダム流域(流域面積:124k㎡)にてモデルの構築を行った。
     流出モデルの入力値として気象庁の解析雨量(2007年)を使用した。解析雨量の空間解像度は1kmであり,時間雨量が30分毎に記録されていることから,正時のデータを日単位で集計し日雨量分布データを作成した。また,可能蒸発散量の算出に,境野アメダス観測所の日平均気温と稚内の高層気象データ,1km解像度のDEM(国土地理院)を用いた。対象流域内の各グリッドの日平均気温を得るため,対象流域至近のアメダス観測所(境野)の日平均気温を基に,稚内の高層気象データから算出した気温減率を用いてメッシュ毎の気温推定を行った。流域の抽出には,250m解像度のDEM(国土地理院)を用いた。流出モデルの最適パラメータ値探索用に必要な実測流域流出量(=ダム流入量)は国土交通省の水文水質データベースから鹿ノ子ダムのデータをダウンロードして使用した。
     タンクモデルを各グリッドに分散配置し,グリッド毎に計算される流出量を流域で集計するという分散型流出モデルを構築した。タンクモデルは単槽式とし、流出量は,表面流出,中間流出,基底流出の合計である。最適パラメータ値は,解析期間の流域モデル流出量と,鹿ノ子ダムへの流入量の差の2乗が最小値となるように、多重ループ法で探索した。
     このモデルによって、この流域の流出を精度良くシミュレーションできた。また,解析雨量が流域水収支解析の入力値として有効であり、さらに、このモデルを似たような地域特性の流域にも適応できるという見通しが得られた。
  • 計量分析のアプローチから
    杉本 興運
    セッションID: P041
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    近年,日本では観光による社会・経済的な波及効果が注目され,地域の観光振興のための様々な施策が必要とされている.観光施策の立案や遂行における意思決定の前段階では,地域の客観的な構造を示す統計情報が有用な資料となる.本研究では,日本全土における観光資源の分布特性や地域の観光資源特性を,地域統計学の手法を用いて分析し,明らかにする.まず,各都道府県別に観光資源の評価ランクを考慮した重み付き観光資源保有数を計算した.そして,全ての観光資源タイプ別の保有数に対して,ジニ係数を算出した.その結果,観光資源タイプによって地域偏在性は大きく異なり,一つの地域にしか分布していない観光資源から,全国的に分布している観光資源まで,様々なタイプがみられた.地域偏在性の特に高い観光資源は,原野,社寺・庭園・公園,博物館・美術館であった.地域偏在性のとりわけ低い観光資源は,年中行事,社寺,植物であった.次に,各地域がどういった観光資源タイプに特化しているのかを把握するため,地域の観光資源タイプ別保有数における特化係数を算出した.そして,特化係数が似た傾向にある地域同士を階層的クラスター分析によって要約した結果,陸域型自然資源(山岳,滝,高原など)に特化した地域クラスター1,海域型自然資源(海岸,岬,岩石・洞窟など)において特化した地域クラスター2,都市人文資源(社寺,博物館・美術家,庭園・公園,史跡)に特化した地域クラスター3,複合的資源構成(島,建造物,歴史景観,動植物園・水族館)に特化した地域クラスター4の,4つのクラスターを抽出することができた.さらに,各クラスター内地域同士の立地特性には,それぞれで特徴的な空間パターンがみられた.クラスター1は中部地方から北海道にかけて地域同士が近接かつ連続し,クラスター2は全国的に分散,クラスター3は関東・近畿地方の大都市圏,クラスター4は主に瀬戸内海の周囲に立地していた.最後に,地域の観光資源の性質的側面と数量的側面から地域特性を分析するため,観光資源構成の偏り度合いを示す特殊化係数と観光資源の重み付保有数の2次元座標を作成したところ,各クラスターあるいは各地域によって,その特徴は様々に異なっていた.しかし,共通にみられる特徴として,観光において全国的に有名な地域ほど,観光資源保有数が高い傾向にあり,それらのなかで特殊化係数が高いものと低いものに分かれた.観光資源分布の地域的偏りは,全体的な視点からみれば,地域の観光資源の特色を決定する要因となっている.
  • 笹本 裕大
    セッションID: 301
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ はじめに
     報徳社とは,地縁による組織の1つであり,地域の財産の構築や相互扶助を行うための報徳仕法を実践するものとして各地で組織化された.近年,地縁によるつながりが薄れつつあるといわれるなかで,この報徳社も減少傾向にある.ただし,存続しているものも少なからずあることから,本報告では,報徳社の存続や解散と現存する報徳社の活動実態に関わる地域的要因を明らかにする.

    Ⅱ 報徳社の全国的動向
     報徳仕法は江戸時代後期から近代にかけて,二宮尊徳およびその弟子らによって全国各地に伝えられ,大正末期の最盛期には全国に1,000社もの報徳社が存在していた.
    高度経済成長期を経た1976年の時点でも,主に第一次産業に従事する住民の割合が比較的高い地域において211の報徳社が存続していた.しかし,その後も報徳社の解散は相次ぎ,2010年には91社が存続しているにすぎない.
     1975年に報徳社が存続していた地域でも第一次産業に従事する住民の割合低下は続いており,高齢化も進行している.そうした地域性の変化に加えて世帯数が大幅に増加した地域では報徳社の解散がみられる.このほか,1976年の時点で報徳社が存在し,その後解散した地域では,その3割で世帯数の減少が確認できた.すなわち,都市化が進行した地域や集落機能が低下したと考えられる地域において報徳社の解散が進んだと推察できる.
     報徳社が存在している地域は,1975年以降の世帯数の増加が比較的少ない.また,持ち家の比率が高い地域が多く,出生時から居住している,もしくは居住歴が20年以上にわたる住人の占める割合が相対的に高い地域において,報徳社は存続する傾向にある.すなわち,報徳社が存続している地域は,都市化の影響が少ない地域であることがわかる.一方,都市化の影響がある地域でも,報徳社員数の変化が少ない地域もある.こうした地域では,報徳社員を含む旧来からの住民同士のつながりが強固であると推察できる.そして,このつながりが報徳社の存続の一因として考えられる.

    Ⅲ 現存する報徳社の活動実態
     現存する報徳社の活動実態を探るため,都市化の影響が少ない地域の事例としてM報徳社を,また都市化が進行してきた地域の事例としてK報徳社をそれぞれ取りあげ,各々の活動実態を比較した.
     M報徳社のあるM集落に報徳仕法が伝えられたのは1900年頃とされている.当時のM集落は農業が盛んな地域であった.こうした地域にあって農業および農村の振興を目的に全世帯を社員として1903年にM報徳社を法人化した.しかし,現在では地域の農業に関わる活動は盛んではない.これは,地域の農業の衰退や高齢化,社員の減少が関係している.ただし,M集落の世帯数は法人化時点から近年に至るまであまり変化がなく,一般世帯のうち持ち家の世帯が占める割合は9割を超えている.すなわち,現在は社員ではないものの,かつては報徳社とかかわりがあった世帯が多く,それらの世帯では報徳社の活動に対して理解があると推察できる.そのため,報徳社は地域住民全体に交流の場を提供するものとして活動を続けている.
     K報徳社のあるK集落に報徳仕法が導入されたのは,1870年頃とされている.その後,地域の財産である共有地の所有権が失われる危機に際し,共有地を法人の所有地とすることで対応するため,1967年に報徳社を法人化した.また,K集落の自治会参加者の大半を報徳社の社員が占めていた.そのため,同社は自治会的な活動も兼ねていた.しかし,K集落では1960年代以降転入者が増加しており,旧来の共同体とは無関係な世帯から報徳社の活動が自治会的な活動を兼ねていることに対して批判が生じるようになった.このため,現在,報徳社では自治会的な活動を行っていない.ただし,土地の管理と保全は現在も行っており,旧来からの住民に交流の場を提供するものとして活動が継続されている.

  • 酒本 恭聖
    セッションID: 703
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    道の駅は、「休憩機能」(トイレや駐車場)、「地域の連携機能」(文化やイベント)、「情報発信機能」(道路や観光)の3つの機能(以下、基本機能)を備えたものを国土交通省が登録する。1993年に103箇所でスタートし、987箇所(2012.3.26現在)にまで増えた。現在、道の駅は、基本機能に加えて地域の農産物直売所、レストラン、祭りやイベントの開催など多くの人や情報が行きかう「交流の結節点」として、機能が進化しているように見える。本稿では、滋賀県の道の駅を事例として取り上げ、これまでの筆者らの取り組みから「観光情報発信機能に着目した地域活性化戦略」について明らかとなったことを紹介したい。
  • 小野 映介, 梅村 光俊, 石田 卓也
    セッションID: P017
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    Ⅰ 研究目的熱帯泥炭地における二酸化炭素の貯留と放出については,地球温暖化問題と絡んで国際的に注目されている.熱帯泥炭の発達過程や化学的性質,火災や開発に伴う消失に関しては,アジア・オセアニア地域において最大の泥炭地を有するインドネシア(約1,800万ha)を主な対象として調査・研究が進められてきた.一方,隣国のパプアニューギニアの泥炭地については十分な検討がされておらず,面積については50万~290万haという広いレンジで捉えられている.同国における主な泥炭地は,北部のセピック川と南部のフライ川流域の低地に分布する.特にセピック川低地には広大な泥炭地が分布するとされるが,その堆積状況を報告した事例は少ない.本報告では,パプアニューギニアにおける泥炭地の面積や二酸化炭素貯留量の算出の一助となることを期待して,その根拠となる泥炭の分布状況や層厚,14C年代,化学的性質について,地点的ではあるが基礎データとして提示したい.また,熱帯泥炭卓越地域における人々の居住の特徴についても若干の言及を試みる.Ⅱ 調査対象地域 パプアニューギニア北部の構造盆地を流れるセピック川は77,700㎞2に及ぶ広大な集水域を有する.中央高地から流れ込む支流を集めながら西から東へと流れるセピック川はビスマーク海へ注ぐ.構造盆地は沖積層によって充填されており,その南側にそびえる中央高地のうち,セピック川の支流群が貫流する地域は,主に中新世以前の硬砂岩,シルト岩,礫岩,火山岩などによって構成される. 今回,地質調査を実施したのはセピック川の河口から南西へ約150㎞上流に位置するブラックウォーター南岸のクラインビット村(標高18から22m)である.セピック川流域では雨量の変化に応じて数mの水位変動が生じるため,ブラックウォーターの面積も変化するが,最大で東西約8㎞,南北約7㎞の湖である.湖にはセピック川の堆積作用によって生じた鳥趾状微高地が所々に発達している.また,湖の周辺にはサゴヤシ林が広がる.Ⅲ 泥炭の堆積状況と14C年代 ブラックウォーター南岸において,ハンドコアラーを用いた掘削調査を7地点(北西―南東軸,10から50m間隔)で実施し,1から4.5m長の浅層地質データを得た.いずれの地点においても炭化した表層の下位には3から4mの暗茶褐色を呈する泥炭層が堆積しており,所々にサゴヤシとみられる樹木遺体が認められた.また,それらのうちの湖岸に近い4地点では地表面下約3.5mより下位で青灰色のシルトおよび細粒砂の堆積が確認された. コアの下部でシルトおよび細粒砂が認められた掘削地点のうち,2地点において泥炭の最下部の14C年代を測定したところ,3,290 yrs BP・3,390 yrs BPとほぼ同様の値を得た.また,その上位約1.5mで採取した樹木遺体からは2,730 yrs BPの値が得られた.Ⅳ 泥炭層の化学的性質の垂直的変化 掘削調査を実施した7地点のうち,KB1地点(4°32' 19.37" S, 143°22' 51.06" E)で採取した4m長のコア(G.L.-4.00から-3.58mはシルト,G.L.-3.58から0.00mは泥炭)から10cm間隔で試料を採取して,以下の分析を実施した.ここでは泥炭層の分析結果に限って記載する.1)CN比:最下部と最上部のそれぞれ約0.5mは13から25,その間は40前後で推移したが,G.L.-2.95で78という突出した値を得た.2)pH:3.85から4.93の酸性で推移し,顕著な垂直的な変化は認められなかった.3)交換性陽イオン:Naは下部のG.L.-3.55から-3.15mで79.4から119.5mg/kg,それ以浅では徐々に値が低くなり,G.L.-0.65から0.05mでは6.1から17.7 mg/kgで推移した.また,CaとMgの挙動は類似しており,G.L.-3.55から0.55mではCaは1.39から6.44 g/kg,Mgは0.18から0.99g/kgで推移したが,それ以浅においてはCaが0.38から1.27g/kg,Mgが0.03から0.06 g/kgと共に相対的に低い値を示した.一方,KはG.L.-3.55から-0.55mで15.2から61.5mg/kgで推移したが,-0.45から0.55mでは76.1から119.3mg/kgで相対的に高い値を示した. Ⅴ 熱帯泥炭の卓越地域における居住ブラックウォーター沿岸は全て泥炭からなるのではなく,河川によって運搬された土砂が堆積する地域も存在する.しかし,クラインビット村において宅地が集中するのは泥炭地である.先のような化学的性質を有する泥炭地ではサゴヤシは生育するが,他の農作物を育てることができない.村人の多くは湖の沿岸にブッシュキャンプを有しており,土壌化した堆積物の発達する地域において農作物の栽培を行なっている.
  • 変動地形学からの問題提起
    中田 高
    セッションID: S1702
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震は,日本海溝沿いに起こったプレート境界型巨大地震であった.地震研究者によると,この地震は複数の固着域(アスペリティ)が連動して発生したもので,想定外の地震であった.これによって連動型地震なる言葉が社会に広く喧伝されるところとなった,講演者らは,プレート境界型地震も陸域の地震と同じように,既存の活断層の固有地震であり,2011年地震は,三陸沖から茨城県沖に連続する役500㎞の長大な活断層が発生源となったと考えている.遠くない将来,必ず発生すると考えられている南海トラフでは,中央防災会議が巨大な連動型地震を想定し,マグニチュード9の地震が発生すると予測しているが,これには,地震発生減となる海底活断層は全く考慮されていない.本発表では,変動地形学的手法によって認定された日本海溝・南海トラフ沿いの海底活断層の位置・形状の特徴と,それから発生する地震について議論する.
  • スターンバーグ トロイ
    セッションID: S1508
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    ゾド、冬の極端な状態はモンゴルにおける最悪の自然災害である。ゾドは家畜の大量死をもたらし、遊牧の生活や食糧供給を混乱させ、遊牧民を都市へと追いやる。これらの出来事は、気候的、社会的、経済的、政治的要因を含み、相互に関連するいくつかの遊牧の動態を反映している。2010年の厳しいゾドにみられるように、今日、人為的、自然的な影響の組み合わせにより、この国のゾドに対する暴露が大きくなっている。本発表では、ゾド発生における遊牧民と政府の政策の役割を検討し、ゾドへの暴露を生み出し緩和する要因を評価したうえで、地域的な視点を積み重ね、ゾド論議における研究の役割を評価するまでに展開する。
  • 災害・交易・オトル
    尾崎 孝宏
    セッションID: S1501
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    中央ユーラシア牧畜地域の東端に位置しているモンゴル高原は、遊牧(移動牧畜)が主たる生業であるという点で中央ユーラシアとしての共通性が見られる一方、その立地条件ゆえ、遊牧のあり方や歴史的変遷については独自性を有している。本発表では、まずモンゴル高原における遊牧の起源と歴史的展開について概観した後、災害リスク回避行動としての交易とオトル、およびモンゴル高原における遊牧の現況について検討する。現在のモンゴル高原における移動牧畜のあり方を特徴付けている要素の一つとして、大型家畜を活用した機動性の高さがある。この機動性は日々の放牧においても、住居の移動を伴う移動においても活用されている。ことにウマの多さは、生業的な文脈における効率のみならず、歴史的には軍事的な優位性も提供してきた。その意味で、モンゴル高原における遊牧の歴史は、同地域における騎馬の開始にその起源を設定して差し支えない。林(2012)によれば、中央ユーラシアでは今から約3000年前に家畜を季節移動させる遊牧的な生業形態が発生し、同時に騎馬が確立したと推定されている。その後の歴史的展開や民族誌的見地から見ても、モンゴル高原中央部を占めているのは各時代の優勢な集団であり、そうした優位性は大量のウマに支えられた軍事力と同義だったという意味で、モンゴル高原とウマ飼養は密接な関係にある。モンゴル高原で行われている遊牧の別の特徴として、牧畜の専業性が高い点が挙げられる。この理由は、モンゴル高原の生産力の高さも考えうるが(Ex. 小長谷・渡邊 2012)、仮にそうだとしても、ゾド(寒雪害)などの自然災害に見舞われれば短期間に多数の家畜を失うことは、近年の経験などからも明らかである。こうしたリスクを回避する行動として、外部社会との交易などによる富の形態変換と、モンゴル語で「オトル」と呼ばれる、主に災害時に行う緊急避難的かつ不規則な移動が挙げられる。20世紀に入り、モンゴル高原が近代国家の枠組みに組み込まれることで、遊牧は近代国家の介入に起因する影響を多大に受けてきた。中国領内モンゴルでは、1990年代には季節移動もオトルもままならない状況となっている。モンゴル国においては現在も季節移動が見られる一方、2000年頃より都市近郊に移住した定住的牧民が増加し、高密度・低季節移動の牧畜を展開するようになっている。
  • 高槻 成紀
    セッションID: S1502
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     モンゴルでは家畜を季節ごとに移動させるから、一年間に利用する草原の面積は広く、必然的に面積あたりの生産性は低いことになる。実際そのような指摘はくりかえしされてきたし、中国の内モンゴルではそのような観点から、耕起、施肥による草原「改良」がおこなわれている。しかし乾燥地における表土の撹乱は荒廃をもたらし、短期的な「改良」により、復元不能な荒廃が起き、持続的利用が不可能になる悲劇が起きている。モンゴルにおいても人口密度が相対的に高い地域や乾燥の度合いが強い地域では植生の荒廃がめだつようになってきている。乾燥地の持続的利用のためには、狭義の「効率」以上に、長期的な草原系維持が優先されるべきであり、効率はその範囲内で追求されるべきである。私たちは従来「非効率」であるとされてきた家畜の移動に伝統的生態知識(TEK: traditional ecological knowledge)を見いだし、これを「遊牧知」と呼ぶこととし、その科学的検証をおこなうことにした。そのために、モンゴル北部のボルガン県において、伝統的移動放牧をさせた家畜(ヤギとヒツジ)の体重と、実験的に可能な限り一カ所に固定させた家畜の体重とを比較した。また、放牧圧の違う草原群落における植物の組成とバイオマスを比較した。 測定開始時のヒツジの平均体重は移動群が36.8kg、固定群が34.9kgで有意な違いはなかった(t検定、P=0.23)。その後、両群とも体重増加したが、翌年の1月以降は減少し、3月に最低となった。その後再び回復したが、5月には移動群のほうが有意に重くなった(P<0.05)。そして6月になると固定群が35.5kgであったのに、移動群では40.9kgと,15%も重くなった(P=0.007)。ヤギの場合、開始時で移動群が平均26.1kgで、固定群の30.0kgより有意に重かったが(P=0.007)、6月には違いがなくなり、移動群は12月に最高値(42.2kg)、固定群は10月に最高値(39.5kg)に達し、移動群のほうが重くなった(有意差, P=0.04)。翌年の春以降、固定群は有意に軽くなった。
  • 趣旨説明に代えて
    日野 正輝
    セッションID: S1301
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    日本の都市化の様相は1990年代後半以降大きく変化した.大都市圏では,都心部において人口転出超過から転入超過への転換(都心回帰)が見られると同時に,郊外では中心都市への通勤圏の拡大は停止し,さらに人口減少を見せる地区が出現するなどの状況が生まれた.日本では,2005年には総人口が少子化により減少を開始した.このような状況は従来提示されてきた先進国の都市化モデルに描かれたいずれの都市化のステージにも該当しない新しい様相である.この様相を,脱成長社会の都市化と概念化して,その実態把握の必要性を説いた.とくに,三大都市圏の変容に関して,大都市圏の構造変容は進行しつつあり,そのプロセスを理解し,適切に対処するためには,現象の継続的な観察を通して,事象の持続性と関連性を尋ね,都市圏全体の変容を包括したモデルの提示が求められていると指摘した.
  • 細井 將右
    セッションID: 307
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    明治前期測量関東地方2万分1彩色地図は、『兵要測量軌典』に則って作成された。その緒論によると、フランス砲工学校の大部の教科書から小地(地形)図学と偵察学の必須の事柄を集録したことを示唆しているように見え、標記地図は一般に「フランス式の迅速測図」と云われているが、これまでこの教科書について明らかでなかった。フランス国立図書館で、3巻からなり合わせて1000ページ以上で、付図として図郭外に「視図」などの付いた標記彩色地図に似た彩色原図見本など、該当すると思われる砲工学校教科書、ルアーグルの『地形図学教程』を見かけたので報告する。
  • 小泉 諒
    セッションID: S1302
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    本報告では,2010年の国勢調査結果を用いて「脱成長時代」における東京大都市圏の空間構造の変容を1)人口増減,2)世帯構成,3)通勤圏の三点を中心に報告する.なお本研究では「東京大都市圏」を,1990年~2010年の国勢調査従業地集計において,東京特別区部(以下,区部と表記)への就業者数が,その地に常住する就業者数の5%を一度でも超えたことのある市区町村と定義する.
    1)人口増減バブル経済による地価高騰ならびに崩壊後の景気低迷期には,特別区ならびに東京大都市圏からの人口流出がみられたが,2000年以降は「都心回帰」と表現される都心部での人口回復が確認される.2005年~2010年では,5%を超える人口増加が東京駅から30km圏内を中心にみられ,新規に開通した鉄道沿線や湾岸部の超高層マンションがその受け皿となったことを示している.
    2)世帯構成人口の増加以上に,世帯総数の増加が著しい.とりわけ都心部における単身世帯の増加の寄与が大きい.区部でも江東区や港区など湾岸部では,乳幼児のいる核家族世帯が大幅に増加した.
    3)通勤圏区部への通勤率に基づく東京大都市圏の範囲は,対象年次によって多少変化がみられる(図1).2005年~2010年では,政令市政都市に移行した相模原市緑区やTXによって東京に直結したつくば市などで区部への通勤率が5%を超えた.一方,郊外での就業機会の増加に伴って,埼玉県越生町や千葉県成田市などが5%を割り込んだ.区部の昼間人口は増加を続け,2010年に1170万人を超えた.また,2010年の特別区部就業者の年齢構造に着目すると,第一次ベビーブーム世代を含む1945~1949年出生コーホートの退職が進み,第二次ベビーブーム世代(1970~1974年出生コーホート)を頂点とする凸型の構成となった(図2).
    以上から,東京大都市圏では人口増加が続くものの,面的な拡大はほぼ止まった.ライフステージからみると,未婚化と少子化の進行で小規模世帯はさらに増加し,広い住居を求めての郊外転居は減少すると考えられる.郊外での雇用創出や区部での住宅取得可能性が高まる中,東京大都市圏内の通勤流動は複雑化し,空間的には縮小していく可能性がある.
  • 山室 真澄
    セッションID: 502
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    義務教育における環境教育の一貫として学校で使用される地図帳でも、環境保全活動に関する題材が求められている。ここで注意を要するのは、環境保全活動として行われているもの全てが、本当に環境保全になっているとは限らない点である。間違った内容が教科書や副読本に取り上げられることで、その環境活動が正当化されてしまう危険性がある。本講演では実際に生じた誤記載を紹介し、広範な分野からなる地図帳における環境保全活動の紹介に関して、問題提起する。
  • 愛媛県の削りかまぼこを事例として
    池田 和子
    セッションID: 409
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    「食文化」の商品化の概念検討のうち、とくに循環に着目して事例研究を行った。愛媛県のかまぼこ産業の調査について、報告を行う。
  • 井上 篤, 原山 智
    セッションID: P015
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
     1998年に飛騨山脈南部で群発地震が発生した。この地震の活動域の一つは上高地付近にあり、その震源は割谷山~明神の範囲で東西に帯状の集中域を示した。本研究ではこの地震の震源集中域に推定される活断層の確認調査を行った。
     上高地地域の、田代橋~明神の南北に存在する山域の斜面を中心に、野外調査を行った。その結果、善六沢、玄文沢及び外ヶ谷上流において、第四紀滝谷花崗閃緑岩を切る複数の断層露頭が確認された。滝谷花崗閃緑岩は140万年前に固結しており(原山ほか2003)、これらの断層は第四紀に活動した活断層であることがいえる。断層の走向の多くが東西系であり、傾斜は60~90°と高角で、しばしば断層粘土を伴う。また六百沢ではカタクレーサイトが、奥六百沢では断層破砕帯に生じた崩壊地形が確認された。
     更に,梓川を挟んで南北両岸の斜面において,槍穂高カルデラ東縁を追跡した結果,右岸における境界は左岸における境界よりも約1km東にずれているのが確認できた。本活断層は右横ずれ断層であることが考えられる。
  • 山内 一彦, 白石 健一郎
    セッションID: 115
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    中国山地西部,山口県伊陸盆地およびその周辺部の地形発達と地殻変動について検討した。同盆地においては,長野-日積断層帯の活動によって北西側が相対的に隆起し,沈降した南東側では厚い砂礫が堆積したものと推定される。それとともに,流域が沈降した由宇川は急勾配化し,特に同断層帯に沿う部分で侵食力が増大したか,または古四割川側から溢流して由宇川による争奪が発生したものと考えられる。大畠瀬戸付近においても同様に,大畠断層帯の活動の影響で河川争奪が生じた可能性が考えられる。巨視的にみると,岩国断層帯より南東側の地形は北西方向に傾動する複数の傾動地塊からなると考えられる。各断層帯の活動が活発化し各断層角盆地の形成が明瞭になるにつれて,古四割川水系河川は下流側が相対的に隆起する各断層帯を越えて北西~西流しにくくなった。それとともに,相対的に沈降した各盆地周辺部の河川が急勾配化して侵食力を増大させ,日積低地と大畠瀬戸で大規模な河川争奪が発生したものと推定される。
  • インド北西部ラダークにおける村落の事例
    山口 哲由
    セッションID: 304
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    山地における農業形態は垂直的な環境変化を利用した農・林・牧の副業形態であることが報告されてきたが,近年は社会経済状況の変化によって垂直性に基づく土地利用形態も変化しつつある。本研究では,インド北西部ラダークの村落事例に基づいて詳細な土地所有や農業経営に関する資料に基づいて農業形態の変化に関する考察をおこなった。 ラダークの村落では,就労や就学を目的として,若者世代の中心都市レーへの移住が著しく進んでおり,それによって村落の過疎化が生じていた。また,低地インドから安価で輸入される穀物によって主食であったオオムギ栽培の意義は低下しており,オオムギ栽培を軸とした垂直的な農林牧複合経営も衰退しつつあった。 インダス川支流の下流部に位置する村落では,中心都市レーや軍キャンプに販売するための野菜や果樹の集約的な生産をおこなうことによって,農業から現金収入を得る形態を構築しつつあった。一方で,上流部に位置する村落では栽培できる作物や樹種が限られるなかで新たな発展の方向性を模索する途上であった。人びとは,新たな社会経済状況のなかで新たな農業や土地利用の形態を模索しているが,そういった場面でも垂直的に変化する自然環境は大きな制約要因となっており,発展の方向性に大きな影響を及ぼしていた。
  • 中村 圭三
    セッションID: P030
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    1. はじめに ネパール南部のテライ低地では、1999年に自然由来のヒ素汚染が明らかになり、その実態および健康被害に関する調査が進んでいる。著者らのテライ低地のナワルパラシ郡における2007年からの調査においても、高濃度のヒ素が極めて局所的に検出され、乾季には雨季の3倍の濃度に達した。また、井戸の深さ13mから23m前後までの層では特に強い還元状態にあり、還元状態が強まるほど高濃度のヒ素が検出されることなどの事実が明らかになってきた。これらの原因としては、地下の帯水層の深さ・地質構造などが大きく影響しているためと推測される。 そこで、地下水の動態とその利用の実態を把握するとともに、ボーリング調査を行い、ヒ素の濃集メカニズムを明らかにすることを計画している。また、ヒ素汚染対策に関する調査研究も合わせて実施の予定である。 本研究は5年計画であり、今回は、初年度の2012年2-3月に現地において実施した調査の概要について報告する。2.調査地域 調査地域は、テライ低地のナワルパラシNawalparasi郡パラシParasiの東西約6km、南北約10kmの地域であり、ここには約30ワード(集落)が分布する。一帯は水田として利用され、ネパールの穀倉地帯となっている。3. 調査実施概要 おもな調査の実施内容は、以下の通りである。                          (1) 調査地域における気象・気候とヒ素汚染の実態およびその原因に関する調査 ① 気象・気候に関する調査 気温・相対湿度・風向・風速・降水量・日射などの基本的気象要素を30分ごとにルーチン観測するための 気象ステーションをピパラの小学校校庭に設置した。 ② 地下水動態および水質調査 各ワードの地下水の水位の異なるポンプ井戸および開放井戸各1について、それぞれの地下水位・水温・pH・RpH・EC・ORP・DO・簡易ヒ素濃度などについて現地で測定した。また、ヒ素やその他の成分につては、サンプリングの後、イオンクロマトグラフ、およびICPM-8500で分析した。  ③ 地質構造に関する調査 調査地域内3か所で地下約20mまでのボーリングを行い、ヒ素濃度と地質・地下水環境との関係を調査した。(2) ヒ素汚染された地下水を利用している住民を対象とした実態調査 各ワードで5~6人に対し、飲料水・生活用水等についての意識、井戸の利用形態・対策等に関するアンケート調査を実施した。(3) ヒ素汚染対策 小学校の校舎に雨水利用装置1基を設置した。
  • 北海道を例として
    小池 司朗
    セッションID: 203
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
    会議録・要旨集 フリー
    近年,比較的人口規模の大きい都市圏において都心回帰が観察されているが,県庁所在地以下の規模の都市圏においては都心回帰に関する報告がほとんどみられない。本研究では北海道を対象地域とし,中小の地方都市を中心とした都市圏の人口分布変化,および都市圏内における中心地の人口圧力の推移について,人口ポテンシャルに基づいた指標により評価を行った。都市圏の中心地と圏域は,DID(人口集中地区)および国土数値情報による都市地域から設定し,基準地域メッシュ単位で分析を行った。その結果,札幌圏を除く大半の中心地において,1970年から2005年にかけて人口ポテンシャルは大幅な低下がみられた。また,圏域内における中心地の相対的な人口ポテンシャルも全体として大幅な低下がみられ,各中心地の衰退が観察されたが,人口減少率が高い都市圏域においては比較的人口が中心地に集中する傾向が認められた。さらに65歳以上の高齢者については,人口減少率が高い都市圏域を中心として総人口以上に中心地への集中傾向が認められた。本研究で算出した値は,任意の都市圏における都心回帰の程度を定量的に把握することが可能な指標であると捉えられると同時に,観察された動きは,今後多くの都市圏人口が縮小に向かうなかでの地域計画に対して示唆的な役割を果たすと考える。
  • 北田 晃司
    セッションID: 704
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/08
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    長崎県は、1990年代まではわが国を訪問する外国人の訪問率で上位10位以内に入っていた。2000年以降も同県を訪問する外国人観光客は数的には増加しているものの、わが国を訪問する外国人観光客の目的地としての重要性はむしろ低下傾向にある。その理由としては同県への訪問数が外国人観光客の中で最も多い韓国人観光客が近年の円高傾向によりわが国への訪問数が低下していることに加えて、他の国籍の外国人観光客についても台湾は北海道、中国はいわゆるゴールデンルート、ヨーロッパは東京、京都に加えて中部地方という具合により自らの好みに合った都道府県を訪問する傾向が強まっていることが挙げられる。特に長崎県や沖縄県などは、異国情緒を感じさせるという点では日本人観光客の高い評価を受けているものの、いわゆる日本情緒や雪景色などを求める外国人観光客からの評価はあまり高いとは言えない。しかし、その一方では近年、東アジアからの観光客を中心に、いわゆる買い物ツアーよりも、自国と日本との文化交流や日常的な食事などに対してより高い関心をもった外国人観光客も増加が見られることから、今後は長崎県に限らず、わが国の都道府県あるいは市町村は、自らの観光資源、特にその歴史的および文化的価値をあるがままに受け止め、外国人観光客に対してもより強くアピールすることが国際観光の振興に有効と言える。
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