日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 706
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発表要旨
長崎県上対馬地域におけるエコツーリズムの確立可能性
-住民意識調査を手がかりに-
*深見 聡
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抄録

 島嶼におけるエコツーリズムの先行研究は、西表島や小笠原諸島、屋久島など「もともと観光地として知名度の高い、いわば「主流」とも言える離島」を扱ったものが比較的多い。他方、これからエコツーリズムの仕組みを本格的に取り入れようという状況にある「主流の離島」以外を対象とした研究は少ない(宮内,2009)。そのなかでは、対馬の集落の観光に対する可能性を「野生動植物を中心に置きつつもそれだけに頼ることなく、離島という立地、文化や景観など集落のもつポテンシャルを利用」する必要性を説いた堀江(2006)や、本稿で扱うのと同じ上対馬地域を対象として韓国人観光客向けの観光プログラムの開発と人材育成の必要性を説いた佐藤・藤崎(2011)、鹿児島県十島村(トカラ列島)を対象として、離島の観光事業は「自然環境や住民生活にとって負荷を調整しやすい形態」を志向することの妥当性を指摘した大田(2012)が挙げられる。しかし、いずれもエコツーリズムに代表される島嶼の観光で主導的な役割を担うことが期待される住民、とくに現在の主要な担い手と位置づけられる商店街に暮らす人びとや、将来の担い手とされる若年層の意識にまで踏み込んだ検討はなされておらず、より地域の実情をリアルに把握する必要がある。 以上のような状況を踏まえて本稿では、エコツーリズムを推進していく際の自然観光資源が比較的未利用の状態で存在する(これからエコツーリズムの取り組みが具現化される状態にある)上対馬地域を対象として、上対馬地域に暮らす住民は自地域をどのように評価し、エコツーリズムをどのようにとらえているかを、アンケートをもとに把握し、今後の上対馬地域におけるエコツーリズムのあり方について検討していく。 本稿では、エコツーリズムを推進していく際の自然観光資源が比較的未利用の状態で存在する長崎県上対馬地域を対象とし、同地域に暮らす住民は自地域をどのように評価し、エコツーリズムをどのように捉えているかをアンケートをもとに把握し、今後の上対馬地域におけるエコツーリズムのあり方について検討した。アンケートは、エコツーリズムという観光による地域活性化というテーマを考慮して、その恩恵をうける地域商店街に暮らす住民を対象者とし、上対馬地域で国際航路の発着点となっている比田勝港に程近い比田勝・佐須奈の両商店街で実施した。また、若年層の意識を知るため、上対馬地域で唯一の高校である長崎県立上対馬高等学校の生徒を対象として実施した。 その結果、上対馬地域では、新たな交流人口の拡大を図るにはエコツーリズムによる取り組みが有望であることを明らかになった。その中でも非移転性や固有性の高い自然や文化といった地域資源に根差したこれらの展開は、住民同士の合意形成といった地道な仕組みづくりがなされてこそ持続可能なものとして定着すると指摘した。 さらに特筆すべきは、他の日本国内の島嶼にはほとんどみられない韓国人観光客の増加という特性を踏まえたエコツーリズムのあり方を早急に検討すべきである。幸いに韓国においても「オルレ」をはじめエコツーリズムのような観光形態に関心が高まりつつある。彼らは対馬におけるエコツーリズムを考える上で成否を握るほどのインパクトをもたらす対象と認識しておくべきだろう。

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