抄録
本研究では、夏季にモンゴルに降水をもたらす場合に限定し、事例の多い①低気圧が北緯45度より北からきて、かつ、北からの水蒸気輸送が卓越する場合(NNタイプ)、②低気圧が北緯45度より南からきて、かつ、南からの水蒸気輸送が卓越する場合(SSタイプ)に着目して、低気圧と前線の構造を解明することを目的とする。その結果、NNタイプでは850hPa面の水蒸気輸送と降水量をみると、バイカル湖の北西のタイガから蒸発散したと思われる水蒸気がモンゴル北部に流入して降水となった。500hPa面温位と比較すると、バイカル湖の西側に低温位の寒冷域があり、この寒冷域がほぼトラフの位置と一致している。つまり、降水域となっている前線の西側に寒冷湿潤の気団があり、前線の東側には温暖乾燥の気団があって、500hPaのトラフと寒気の東進に伴って、低気圧と降水域が東へ移動する。850hPaの風はこのトラフに沿っている。また、SSタイプでは、850hPa面の水蒸気輸送と水蒸気の収束・発散および降水量をみると、日本海から移流した水蒸気がモンゴルの東方で収束し、降水がみられる。500hPa面温位と比較すると、モンゴル全体が切離低気圧に伴う弱い寒冷域におおわれているのに対し、モンゴルの東方にみられる切離低気圧の東側に沿って形成される南風に沿って南からの暖気が流入している。つまり、降水域となっている寒冷前線の西側には切離低気圧による寒冷乾燥の気団があり、前線の東側には温暖湿潤な気団がある。850hPaでは日本海付近から流れ込む南風により水蒸気が流入している。