抄録
はじめに
日本におけるこれまでの還流移動(Uターン)に関する研究は,地方圏を中心とするものが多く,分析対象となる地域も広い(貴志,2011).また,地方圏へのUターン者は単身や夫婦2人世帯といった移住も比較的しやすい若年期が大勢とされ,ライフステージの進行により世帯規模の拡大した後のUターンは例外的とされている(江崎他,2000).しかし,比較的大都市に近い農村地域への還流移動の傾向は地方圏と異なり,世帯規模の拡大した既婚での還流移動(以下,既婚Uターン)が未婚での還流移動(以下,未婚Uターン)に近い規模で存在している可能性が高いことがわかった.そこで,本報告は大都市に近い農村地域の配偶関係(既婚・未婚)に注目したUターン者の分析を行う.
対象地域
調査対象とした兵庫県多可町加美区は神戸市より自動車で約2時間の農村地域である.いわゆる限界集落のように極めて交通アクセスが不利な農村地域と異なり,都市よりある程度の距離にある農村を対象としたことで,より一般的な農村地域のUターンの傾向を把握できると考えた.また,2000年国勢調査の人口規模別市区町村数をみると,1万人前後の市町村が多い.加美区の人口は6629人(国勢調査2010年)となっており,多くの市町村の好例であるといえる.
調査手法
本報告は神戸大学と多可町との連携によって加美区において2009年8月に実施した全世帯アンケートを用いている.アンケート回収状況は,配布票数1912,回収票数510(回収率26.7%)であった.アンケートより世帯主である加美区出身の男性Uターン者133人を分析対象とした.なお,本研究ではUターンの定義を加美区出身者が加美区外に転出し再び加美区に戻ることとする.
既婚・未婚Uターン者の特性
全ての世代での既婚・未婚Uターン者の特徴をまとめると以下のようになる.既婚Uターン者は20歳頃に就職を機に主に兵庫県内へ他出し,兵庫県内での移動を繰り返し,結婚後7~8年の世帯規模の拡大した段階で子育てや住宅事情を理由としてUターンしている.一方,未婚Uターン者は18歳頃に他出し,23歳頃他出先より直接帰還している.
このように,既婚・未婚によってUターンの実態は大きく異なっており,大都市に近い農村地域では既婚Uターンが地方圏に比べ多く見られる可能性が極めて高い.また,数多く存在する大都市に近い農村地域において,Uターン促進の施策を考える際には未既婚の差異が重要と考えられる.