抄録
関東地方においては,都市型災害などの関連から降水特性に関する研究が活発になされ,沿岸域・平野域・山地域と明瞭な地形の起伏に対応して,夏期には雷雨などの降水発現の頻度や強度の時間的特徴が地域によって異なることが知られている(たとえば澤田,2000;藤部,2003)。特に,近年では東京都心域を中心とした南関東における降水特性の変動が指摘されており,これは地球温暖化などの気候変動や都市気候としてヒートアイランドやそれに伴う気圧場の変化の関連から議論がなされている(藤部,1998;高橋,2003;澤田・高橋,2007)。このような降水特性(雨の降り方)に関わる要因を考察する場合,大気循環が形成される時刻を併せて考慮する必要がある。藤部(2004)は,日本を対象とし強雨を伴うような対流が関わる発雷頻度の日変化において,夕方の極大時刻の遅れる傾向を指摘している。強雨発現頻度の増大傾向を,都市気候や気候変動などから考慮する場合,それらが顕在化する時刻にも変動があってよい。本研究では,降水に関わる背景を考慮する上で重要な,降水特性の時間的特徴の経年変化と地域性を捉える。資料 資料は,時間的・空間的に詳細な降水量が得られるAMeDASの毎時観測資料を用いた。対象とした期間は1980~2009年(30年間)の夏期7,8月で,欠測が1%未満の地点(104地点)を対象とした。結果 関東地方における毎時の総降水量に対する各降水階級までの累積寄与率は(図1),関東地方(全体)においては18JSTを中心とした夕方に上位の降水階級の寄与率が若干大きいほかは,時間変化は小さい。一方,東京(大手町)においては19,20JSTに上位階級の寄与率の大きい時刻が明瞭に認められる。都心部を中心とした南関東では,夏期総降水量は関東地方における他のAMeDAS地点より少ないものの,強雨の寄与率が大きい地点が複数認められる。これらのAMeDAS地点における短時間強雨(20mm/h≦)の寄与率の極大時刻の経年変化は(図2),東京南部に位置する世田谷・東京(大手町)の両者とも,1980年代は18JSTを中心に寄与率が大きい時間が認められるが,2000年代においては20~21JST頃に寄与率の大きい時間帯が認められ,強雨の寄与率の極大時刻が遅れる傾向が判る。他方,内陸の熊谷や山岳域においては強雨の寄与離宮の極大時刻に明瞭な経年変化は認められなかった。この結果は,近年の増大傾向を示す都心域を中心とした短時間強雨発現の時刻と矛盾せず,その遅れる傾向は都心域の強雨発現のシステムを考慮する上で興味深い事実である。発表では,毎時の時間降水量の階級別寄与率の地域性やその年々の特徴を提示し,降水特性と大気循環の関連性を論じたい。