抄録
サバナケットはラオスの中南部に位置し、ラオス国内で最大の面積(約210万ha)を持つ、森林被覆率が極めて高い県である。近年になると、同県でも恒久的農地や焼畑耕作の拡大といった土地利用変化に伴って膨大な森林消失が生じたと指摘されているが、土地利用変化と森林消失の関係に関する検証、特に長期的な検証はこれまでに十分になされてこなかった。本研究では、同県における森林減少および土地利用変化の分析を、1968年撮影の衛星写真(CORONA)と2008年撮影の衛星画像(AVNIR-2)を使って行った。CORONAは1枚あたりの撮影範囲が大きく(17×231km)、古い時代(1960年代頃)に世界中で撮影されていることから、この研究の趣旨に極めて有用である。画像分類に際しては、森林(Closed Forest)、疎林(Open Forest)、水田(Paddy)、裸地(Bare)、藪および低木林等(Shrub, Bush, etc)の5種類の土地被覆/土地利用に区分を用いた。 AVNIR-2の画像分類の結果、2008年時点における各土地被覆区分の県面積に占める割合は、39.2%(Closed Forest)、30.6%(Open Forest and Bush)であった。1981年時点におけるサバナケット県の森林面積は73%程度であるとこれまで言われていたが、この分析結果からは、2000年代後半に至っても同県の森林は、1981年のそれとほぼ同等の規模が残存していたことが明らかになった。 またCORONA写真の分類結果との比較(図1)からは、 a)1960年代からの40年間での森林面積の減少率も、従来の説と比べるとかなりゆるやかであったこと、b)県西部の疎林の開墾(水田への転換)による消失や、北西部の森林の減少などが部分的には目立っていること、c) 森林消失の深刻さが指摘されてきた県西部(焼畑域)では、集落と土地被覆分布の変化からむしろ焼畑の森林は過去40年間で回復傾向があること、などが明らかになった。