抄録
1.はじめに 本報告は、日本の山村の持続的発展について、西野・藤田の分析による非限界性を示す山村の事例に依りながら、自然・文化資源を軸に今後の新たな方向性を見出そうとするものである。 現代日本の山村は、グローバル化や知識経済化の中で、分工場や建設業に支えられた「周辺型経済」が解体し、他方、平成の大合併により自治体としての政治的自律性を失うなど、大きな転機に直面している。今日の日本が経済成長の時代から定常型社会の時代に移行しつつある中で、山村の今後をどのように展望すべきであろうか。2.非限界山村・広島県旧福富町における地域振興の展開 事例地域の福富町は1955年に竹仁村と久芳村の合併により誕生し、2005年にはさらに東広島市に編入合併した。東広島市の中心部まで30分程度で到達可能で近郊山村的な性格をもっている。1985-2000年の人口減少率が9.7%で、若年層の比率が16.6%と、非限界的な性格を示す。この町のうち、旧竹仁村については、地域振興の新たな方向を示す事例として既に検討したが(岡橋、2008)。この事例には、知識経済化時代における山村振興の方向性がある程度示されているといえよう。3.自然資源・文化資源からみた福富町の現状と課題 自然資源、文化資源の活用という点から福富町の現状を見直すと、また別の特徴が浮かび上がってくる。前者については洪水調節と水道用水の供給を主たる目的とした県営福富ダムの開発(2009年竣工)がもっとも重要である。文化資源の活用となると見るべきものがなく、今後の地域振興の大きな課題と言えよう。3.山村の自然・文化資源と地域振興の創造性 知識経済化時代の山村の持続的発展にとっては、地域の自然資源・文化資源を地域で独自に組み合わせ創造的に活用していくことが求められる。中四国地方の非限界性を示す山村には、そのような事例が少なくない、例えば、岡山県西粟倉村や高知県檮原村では、注目すべき取り組みを行っている。4おわりに 非限界性を示す山村の事例から自然・文化資源に注目して今後の持続的発展のあり方を検討した。この点をさらに深める上で、コミュニティの創造活動、文化と産業における創造性などを掲げる「創造農村」論には学ぶべき点が多々あると思われる。報告当日にはこの点にもふれたいと考える。