日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 107
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発表要旨
福島県南相馬市原町地区における東日本大震災後の工業の諸課題
*初澤 敏生
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抄録

本発表は原町地区(旧原町市域)の工業の実態と、それらが直面している諸課題についての調査報告である。原町地域の事業所の実態を把握するため、2011年11月に原町商工会議所会員事業所を中心にアンケート調査を行い、工業部門では160通の回答を得た。回答企業中、地震・津波による死者・行方不明者は29名、物的損害があった事業所は85に上った。このうち過半数の49事業所が被害額500万円未満であるが、損害額が1億円以上に上る事業所も3社ある。原発事故の影響としては、約3分の2にあたる107事業所から受注が減少しているとの回答が寄せられた。また、85事業所からは従業員の確保が困難であることが指摘されている。当初、原発事故は雇用調整助成金の助成対象とならなかったため、各企業は従業員を解雇せざるを得なかった。この結果、企業と従業員との関係が切れてしまい、多くの市民が市外に避難したのと相まってその後の操業再開に大きなマイナス要因となっているのである。回答企業の従業員数を合計すると、2月の2,987人から10月の2,416人へと、約2割減少している。売上の変化を見ると、2010年と2011年の各10月を比較して、売上が増加した事業所は12、減少した事業所は91、あまり変わらない事業所は26となっている。建設業関連の事業所が比較的多いことから、売上を伸ばしている事業所もある一方、70%の事業所が売上を減少させている。売上を減少させている事業所では、3割ぐらいの減少が最も多い。機械工業関連事業所22社の取引関係の地域別変化をみると、受注はすべての地域において減少している。しかし、関東地方が1割強の減少にとどまっているのに対し、相双地域は6割、市内・東北地方は3割、県内は2割の減少となっている。特に相双地域の減少幅が大きく、製造業の衰退が非常に深刻な状態になっている。一方、発注事業所数は減少幅こそ受注に比べると小さいものにとどまっているものの、市内・相双地域を中心に減少している。このような取引関係の縮小が、各事業所の経営の悪化につながっている。今後、地域産業の復興を進めるためには地域の産業集積を維持するとともに、それらの連関関係を深めていくことが必要である。

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