抄録
1.はじめに
ドイツの「風の道」計画は,冷気流を市内に誘導し,都市にたまった大気汚染物質を吹き飛ばすための政策として実施されてきた(一ノ瀬,1933).この風は同時に熱も拡散させるほか,冷気として,都市内に移流してくるため,ヒートアイランドを緩和する効果としても期待されている(Weber and Kuttler,2004).しかし,国内での山風の事例は数少なく,まだ十分に研究されていない.そこで,本研究では,浜田・一ノ瀬(2011)の長野県長野市における裾花川の山風とその北東方向に約4 kmに位置する浅川の山風を比較することでの山風の実態把握および気温への影響の比較をするための基礎研究と位置づけるため,浅川地域を対象地域とした研究を行っている.その結果の概要を報告する.
2. 調査方法
山風の到達距離および幅を明らかにするために浅川沿いおよび谷の直交方向約2 kmに等間隔に設置してある総合気象観測装置(計2台)および気温計(計6台)で定点観測を行っている.また,超音波風向風速計と気圧計を用いた風,気温と気圧の自動車による移動観測を11月から12月まで計14回行った.
3. 結果と考察
平均的な山風日においては,長野市浅川地域における山風は谷口で風が増し,市街地に吹き下ろすことがわかった.また浅川谷口付近(北西側)では低温域と高圧場が発生しており,そこで風が発散して市街地を冷却しているのではないかと考えられる.山風の影響範囲は風,気温分布図から判断し,直線方向にして約1.2 km ,幅約1.9 kmの影響をもっている. 一方,非山風日においては平均的な市街地の風分布には山風日と差がないものの,低温域と高圧域が,浅川谷口方向ではなく駒沢側の谷口(北側)に位置するようになる.これは,両谷口に近い定点の風向風速計のデータから,持続の短い浅川からの山風と一般風もしくは駒沢川からの山風による北風が共存していると考えられる.つまり,浅川からの山風とこの北風の強弱比で気温および圧力分布に差が出ていることが考察される.