日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 417
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発表要旨
異業種間関係からみた秋田県湯沢市における麺類産業の展開
*淡野 寧彦
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抄録
1.はじめに
 1世帯あたりの穀類購入金額は1993年の119,810円からおおむね減少傾向にあり,なかでも米の減少が著しい。一方,麺類の割合は増加傾向にあり,2009年では穀類全体の約22%を占める。また近年では,ラーメンや焼きそば,うどんといった麺類がとくに好まれ,地域活性化などの手段としても注目されている。国内農産物の活用や食料生産に関わる技術・雇用を維持・向上させるためには,こうした消費の動向に適応した取り組みが重要であり,第1次産業のみの動きでなく,異業種間の関係性を強化した活動が不可欠である。本報告では,秋田県湯沢市における麺類産業を取り上げ,なかでも地域の伝統技術や文化と密接な関わりをもつ稲庭うどんと,地域の主要農産物である米を活用したこまち麺の2つに注目する。これらの食料産業が,麺類消費の相対的拡大を背景として,どのような異業種間の関係性を築きながら展開しているのかを明らかにする。
2.稲庭うどん
 稲庭うどんは,1980年代から主に贈答品としての需要が拡大し,2000年頃には業界全体の年間売上額が約60億円に達したが,その後は横ばいないし微減傾向にある。近年では,飲食業との結びつきを強め,業務用商品の売上増加や,稲庭うどんの技術を生かした新製品開発などが展開されている。また,県内屈指の観光地である仙北市角館町中心部では,稲庭うどんが地域の名産品として大々的に取り扱われるなど,観光業との結びつきも強まっている。
3.こまち麺
 こまち麺は,湯沢市や羽後町で生産されたあきたこまちを用いて製造されるもので,2006年に湯沢市のM社が販売を開始した。M社は製麺技術の開発を横手市や埼玉県の企業とともに進め,2009年にこまち麺の完全自社製造を実現した。また,こまち麺の販路拡大を図るため,大手卸売企業との関係性強化を進めた。2010年の実績では,提携する農家85戸,売上量42万袋にまで事業が拡大した。
4.おわりに
 本報告で取り上げたそれぞれの事例では,異業種間関係の強化によって,商品売上の維持・向上や,商品品質の改良などが実現され,これらがいずれの麺産業の存続や拡大にとって重要な意味を持っていた。ただし,こうした動きでは,特定地域内のみでの関係が主眼とされるのではなく,技術や流通面を考慮したうえで,様々な空間的広がりを持った関係が形成されている。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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