抄録
本発表では,スマートフォンやタブレットPCを端末とするクラウドGIS によって複数人によるフィールドでの空間データ収集を行えるシステムを構築し,実際に利用した例を報告する.
今回用いたクラウドGIS のサービス提供部分はESRI 社のArcGISOnlineおよび発表者らが設置したGIS サーバからなる.後者はサーバOS で稼働するPC にSQLによるデータベース管理システムを構築したうえでESRI 社のArcSDE およびArcGISServer を導入したもので,調査用のGISデータを管理・蓄積し,ArcGISOnline から閲覧・更新させる機能を提供する.端末部分は調査者各自のスマートフォンやタブレットPC にArcGIS をインストールしたものである.
このシステムを博士前期課程1 年生の履修するフィールドワーク実習授業での土地利用調査およびテナント業種調査に用いた.11 人の院生が各自の端末のArcGIS を起動し3G 回線経由でArcGISOnline にログインし,共有する背景地図レイヤと編集対象レイヤを端末のArcGIS 画面に呼び出して,各自の分担範囲で同時に調査を進めた.端末画面にタッチして編集対象レイヤに図形を描き,続いて記号表現を選択し,用意されたフィールドへ属性データを入力する,という単純な手順で空間データを作成できた.1 つのフィーチャが入力されるとその情報はArcGISOnline を経由してGIS サーバに伝えられ,サーバ内のデータが更新されて,その結果は全員の端末画面にすぐに反映された.つまり調査経過の全体を常に全員の端末で確認できた.このため状況に応じて教員が院生に指導助言したり,院生どうしで相談・協力しあったりという柔軟な対応が可能であった.作成されたデータはArcGISDesktop 等で利用できた.
このシステムでは複数の調査者が,容易に操作できる自前の端末を用いて,共通の空間データベースを同時に編集し,調査経過を同時に共有できた.こうしたクラウドGIS の利用法は,共同的な調査プロジェクトをすすめる基盤として,参加者が調査経過を共有しつつ柔軟に利用できるという大きな有用性をもつ.