抄録
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は日本観測史上最大のM9.0を記録し,地震による大規模な津波により甚大な被害をもたらした.本研究では津波の被害があった地域の中で,貞観地震の津波堆積物が確認されている,福島県相馬市松川浦周辺における津波堆積物の分布と特徴について報告する.
調査地域での東北地方太平洋沖地震による津波高は相馬港で9.3m以上,津波の遡上高は相馬港周辺で最大21mである.震災後に津波の遡上範囲が複数描かれているが,本研究では日本地理学会災害対応本部津波被災マップ作成チームが作成した“2011年3月11日東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災マップ”を使用した.
2011年7月17日に福島県相馬市の松川浦周辺において,6カ所で津波堆積物の調査を行った.
Loc.1からLoc.3の小泉川・宇田川沿いの水田や畑の上に堆積している津波堆積物は,海岸から離れるに従って薄層化・細粒化する傾向を示している.一方,宇田川河口付近のLoc.4では,上流のLoc.2やLoc.3よりも津波堆積物が薄い.Loc.4は微高地で,アスファルトに覆われていたため,侵食により周辺の堆積物を取り込んでいないことが影響している可能性がある.
Loc.5の水田上では津波堆積物は6cmの厚さだが,水田脇の用水路では26cmの厚さであった.Loc.6は水田と微高地である農道との境であり,水田上よりも厚い17cmの津波堆積物を確認することが出来た.これらは津波堆積物の厚さが微地形により容易に変化する特徴を示している.
Loc.3では3層の級化する津波堆積物の砂層の間に2枚の薄いシルト層が挟まっている.このシルト層は押し波後の水の停滞時に,浮遊していた粒子が堆積したものと考えられる.従って,3層の砂層のうちシルト層に覆われている下部の2層は押し波によって形成された可能性が高い.Loc.5では2層の級化する津波堆積物の砂層の間に1層のシルト層が挟まっている.このシルト層も押し波後の水の停滞時に堆積したと考えられ,これに覆われている下部の砂層は押し波によって形成されたと考えられる.上部の砂層は陸側に傾斜するラミナが確認できることから,この砂層も押し波で形成された可能性が高い.
以上のことから,松川浦周辺には少なくとも2回の大きな津波の襲来があったと考えられる.