日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 605
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発表要旨
最終間氷期末期における印旛沼南部地域の陸化過程
*新井 悠介
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抄録

下総台地はMIS5eの高海面期に形成された木下層から構成される下総上位面が最上位の段丘面を形成する(杉原1970).MIS5eの海進最盛期の古東京湾は太平洋側に湾口が向いており,下総台地は浅海底で堆積した木下層上部砂層が広く堆積した.MIS5eの海進最盛期以降に,房総-銚子と松戸-四街道の離水軸及びバリアー島に挟まれたMIS5eの段丘の分布高度が低い印旛沼南部地域は,海退期の泥層が堆積したとされている(岡崎ほか1992).MIS5eに形成された海成段丘の高度分布の差の成因を解明することは活構造を推定するうえで重要な役割を担うが,この海退期の泥層はテフラに乏しいため上岩橋層の泥層(小島1959,杉原1979),竜ヶ崎層の泥層(青木ほか1971),木下層上部層の一部(岡崎ほか1994)と異なった解釈がされている.そこで本研究は層序関係の再検討・テフラの追跡・堆積環境の推定を行った.その結果に基づき,本発表は印旛沼南部地域に分布する泥層を木下層最上部泥層と仮称し,この地域でMIS5eに形成された海成段丘の離水期における陸化過程を報告する.
①露頭観察及び地質断面図において,八街や富里では清川層の上位に木下層上部砂層が堆積する.印旛沼南部地域は木下層上部砂層と木下層下部泥層を欠き,木下層最上部泥層が清川層を覆う.地質断面図から,木下層最上部泥層は木下層上部砂層の上位に堆積すると考えられる.
②木下層最上部泥層は未風化のテフラが堆積し,鉱物屈折率と全岩化学組成がHk-KmP1に類似することから対比が可能である.また,富里の木下層上部砂層最上部と,木下層最上部泥層下部はKlP群に対比可能なテフラが堆積する.
③木下層最上部泥層の下部の堆積環境は,総イオウ含有量が0.3%以下と低い値を示し,汽水域に生息するヤマトシジミと淡水域に生息するマメシジミが産出することから河口域の堆積環境が推定される.一方,木下層最上部泥層の上部の堆積環境は,総イオウ含有量が0.5-1.3%と還元的な堆積環境を示すこと,含泥率が高いこと,色調が青灰色であることから内湾の堆積環境が推定される.
以上のことから,木下層上部砂層はMIS5eの海進最盛期以降に離水し,印旛沼南部地域で木下層最上部泥層の分布する地域はHk-KmP1降下以降,すなわちMIS5eからMIS5dにかけての海退期に離水したと推定される.

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