抄録
1.はじめに
地域開発・発展において、地域ベース(Community-based)や地域主導(Community-driven)というアプローチが、2000年に入ってから特に重視されるようになった(World Bank 2002)。しかしながら、「地域」をどのように捉えるのか、「地域主導」とはどう進めていくのがよいのか、という議論が深まる前に開発援助プロジェクトに採用される傾向が強く、名目的なアプローチとなっている場合もある。本報告の目的は、地域主導のあり方と地域単位の捉え方を検討するために、ネパールの異なる特徴をもつ山村の森林管理を比較し、地域主導型運営方法を浮き彫りにすることである。森林管理に着目した理由は、森林問題が、資源の利活用と管理、生物多様性の維持、土地利用上の圧力、民族等の諸権利の保護など、さまざまな地域問題のいわば「交差点」となっており、地域レベルでの実質的なガバナンスの構築という課題が浮上しているからである。調査対象地域は、農牧林業が中心の山岳地域の山村と首都カトマンズに近い都市近郊の山村(山間地域)である。本分析は、2000年から続けている定点観測(質問票を利用した調査、聞き取り調査、参与観察等)から得られた情報をもとに行った。
2.地域単位の捉え方と地域主導のあり方
山岳地域の場合は、民族の混住化があまりみられないため、集落単位での森林管理が実施・継続されており、行政村という単位を通じて、政府の森林政策が導入されるルートができている。しかしながら、これまでトップダウンを強制してきた政府関係者と住民の間には溝があり、政府政策に一時的には対応しながらも、実際には集落もしくは複数の集落単位で個別のルールを設定した管理運営を行っている傾向がある。山間地域においては、民族・カーストが混住していること、首都近郊で商業的な農牧業が進んでいること、出稼ぎ等による雇用形態の多様化、貨幣経済や個人主義の浸透などにより、集落単位による活動よりも、一部の住民や援助関係者で構成されたNGO(機能組織)を単位とした活動が中心的と運営を行っている。政府による援助はもとより、個人ネットワークを通した海外開発援助の導入や都市システムとのリンクなど、対外的な影響を受けながら地域社会が急激に変化しているため、それに応じるように森林管理方法も変わりつつある。
3.おわりに
以上、二つの異なる地域の森林管理の実態や変遷を通して、地域単位の捉え方と地域主導のあり方は動態的で重層的な視点で捉える必要があることが明確となった。これらの多様なあり方を踏まえたうえで、どのように動態モデルを構築していくかが今後の課題となる。
[参考文献]
辰己佳寿子(2012):インフォーマル組織の定着過程を通した地域社会の多面的発展.『西日本社会学会年報第10号』(印刷中)。
World Bank(2002):Issue Paper for a World Bank Social Development Strategy.World Bank, Washington, D.C.。