日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 618
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発表要旨
南アルプス南部,ダマシ平南西斜面における周氷河性平滑斜面の発達史と植物群落
*菅沢 雄大増沢 武弘
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抄録
 日本列島の高山の山稜部,特にその風衝側斜面には,主として最終氷期に形成された周氷河性平滑斜面が広く分布し,そこにはハイマツ群落や風衝矮生低木群落,風衝草原,高山荒原植物群落などの様々な植物群落がモザイク状に分布する.本研究では,赤石岳の北方,ダマシ平の南西斜面(風衝側斜面)において,周氷河性平滑斜面の発達史と山稜部の植物群落の分布との関係を明らかにすることを目的とする.
 調査地域には主稜線(標高2850m)から標高2500m付近にかけて縦断方向・横断方向ともに凹凸の少ない平滑な斜面が分布する.平滑斜面上の植生は,下部:ハイマツ帯,中部:風衝矮生低木群落,上部:無植被で,森林限界以下に連続する場所もある.これらの特徴から,中部・下部は過去の寒冷期に形成された化石周氷河性平滑斜面,上部は現在も形成が継続中の周氷河性平滑斜面であると考えられる.周氷河性平滑斜面下部の標高2550m付近(loc.1)には,森林限界に沿って水平方向に連続し,花づな状の平面形を呈する急傾斜部が存在する.このような地形や植生の特徴が見られる周氷河性平滑斜面上の急傾斜部は,清水(1983)や長谷川(1996)が報告した末端小崖に相当すると考えられ,これを境に周氷河性平滑斜面は,上部の相対的に形成期の新しい新期周氷河性平滑斜面と下部の形成期の古い旧期周氷河性平滑斜面に区分される.新期周氷河性平滑斜面では,斜面物質を層厚2~10cmの腐植質土層が覆う.この腐植質土層の最下部には鬼界アカホヤテフラ(K-Ah:約7,300年前)の濃集部が存在する.一方,旧期周氷河性平滑斜面では,斜面物質を直接覆う土層は細粒物質からなる褐色(7.5Y4/6)の土層であり,さらにその土層を覆ってK-Ahの介在する腐植質土層が見られる.以上の土層断面の結果および地形・植生の特徴から,新期周氷河性平滑斜面の形成時期は晩氷期に,旧期周氷河性平滑斜面の形成時期はLGMに対比されると考えられる.新期周氷河性平滑斜面の上端は,風衝矮生低木群落がパッチ状に分布する砂礫斜面と標高2800m付近(loc.2)で接する.両者の境界でトレンチを掘削し,断面を観察した結果,新期周氷河性平滑斜面の構成層を砂礫斜面の構成層が覆うことが確認された.また,両層の間にはK-Ahを含む埋没土層が不連続に存在する.これらのことから,新期周氷河性平滑斜面が安定化し植生が定着した後に,山稜部から斜面下方に向かって斜面物質移動が再び活発化し,loc.2付近まで砂礫斜面は拡大したと考えられる.それが生じたのはK-Ah降下以降のネオグラシエーションであると考えられる.
 調査地域の周氷河性平滑斜面は下方から,①旧期周氷河性平滑斜面,②新期周氷河性平滑斜面,③完新世に拡大した周氷河性平滑斜面,④現成の周氷河性平滑斜面に区分される.旧期周氷河性平滑斜面にはシラビソ林が成立する.新期周氷河性平滑斜面にはハイマツ群落およびハイマツ・矮生低木群落が分布し,後者は主に尾根沿いに見られる.完新世に拡大した周氷河性平滑斜面には風衝矮生低木群落,現成の周氷河性平滑斜面には風衝地植物群落が分布する.このように,山稜部の植物群落の分布が周氷河性平滑斜面の形成期の違いに規定されることが明らかになった.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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