抄録
福岡市史では考古特別編として環境,景観,遺跡といったキーワードで多様な側面から福岡の歴史を先史から現代まで通覧する巻が作成されている.このために作成された土地利用図を利用して水害という観点から,福岡市の近代以降における土地利用変化と災害との関係を考えていくためのステップとして,土地利用変化が河川のどの地点に影響を及ぼすかを検討した. 分析対象地域は福岡市とし,特に事例として室見川を扱うこととした.明治以降現在まで4時期の土地利用図を作成し,流出係数を対応させて一定の雨量があった場合,各地点での流量が明治から平成にかけてどのように変化したかを見る.観測点は主要な河川との合流点および河口に設定した.このとき同一の雨量で同一地点における河川流量の変化と共に,明治期を100とした場合の各地点における変化率を算出した.その結果(1)明治から平成にかけて,河川下流域における流量が増加しており,都市化による河川流量への影響が数値的に明らかに示されたこと,(2)変化率においては明治から昭和初期にかけての上流域において大きな値が示され,山林利用の変化が明治から昭和初期にかけて上流域に大きな影響を与えたことが明かとなった.この2点から土地利用の長期的変化と自然災害の関係を考えていく上では都市化だけでなく山林利用の変化や上流域における土砂災害などを考慮していく必要があると考えられる.今後の課題としたい.